ほっぺにちゅう
※静+臨で無自覚シズ⇔イザ?









俺はあんまり人に触られるのが好きじゃない。
何故だと言われたってはっきりとした理由など分からない。接触嫌悪症というほど酷くはないけど、ただ、触れなくてすむならその方がいい程度には好きじゃないのだ。



「シズちゃん、できれば離してほしいんだけど」
「あ"あ?」
「いや、ホント服伸びちゃうから止めてよ」

胸倉を捕まれて宙づりにされて。
俺は苦しさに呻きたいのを堪えて申告したのだが、当然のように無視された。
だからシズちゃんは嫌なのだ。俺の言葉なんて最初から聞く気もないから、得意の話術で煙に巻くこともできやしない。

「殴る気ないんならさ、とにかく離してよ」
「………」

やはり無視だ。
何を考えているのか知らないし知りたくもないけど、シズちゃんは俺を片手で持ち上げたまま、じっと睨みつけている。
…一体なんなんだ?

「ねぇ、シズちゃんってば」

本当に、さっさと離して欲しい。息が苦しいし、それに、ほら。触れそうな位置に人間がいるだけで、なんだか皮膚の下がざわつくような不快感を覚える。この接触に対する不快さは人間にしか感じないから、ムカつくし認める気ないけど、こいつも一応人間なんだな、とか。そんなことを思った。

「しーずちゃん、シズちゃんシズちゃん」
「…うるせぇぞノミ蟲」
「いや、君が離してくれない上にぜんぜん反応しないもんだからさ」
「あー…チッ」

舌打ちして、シズちゃんは俺を下ろしてくれた。珍しいこともあるものだ。

「…なあ、ノミ蟲」
「なに?っていうか、そのノミ蟲っての止めてくれない?」
「まさかと思うんだけどよお…」

首を傾げて俺を見下ろすシズちゃん。
でかい男がそんな仕草したって可愛くないよ。…可愛くない、はずだ。
何だか一瞬大変よろしくない感情が沸き上がった気がして、即座に否定する。違う違う。俺はシズちゃんを可愛いなんて思ってない。
俺がそんなことを脳内で呟いているなんて知りもしないシズちゃんは、気にすることなく、言葉を続けた。

「手前、触られんの、嫌いなのか?」
「ッ!」

は?何で?何でバレてるんだ?さっきまでの行動のどこかにそんなそぶりがあったか?いや、ないはずだ。俺はいつでもバレないように細心の注意を払っているし、そもそも俺のこれはそれほど顕著なものじゃない。

「は、はは…何、言っちゃってんのさ。そんな訳ないじゃん」
「………」

うわ、疑ってるなぁ。別に俺がどうでも君には関係ないだろ。
俺の表情を探るような、そんな目で見つめてくるシズちゃんの視線が鬱陶しい。じっとサングラス越しに色素の薄い目が俺を見ていて、正直落ち着かなかった。
…何だよ、何なんだよ?シズちゃんには何の関係もないはずなのに、何で気にするわけさ?
ああ、もう。そんなに疑うんなら、違うって証明してあげようか。…いや、本当は違わないけど、シズちゃんに弱点知られるのとか、冗談じゃないし。うん、そうしよう。
思った時には、少し背伸びして、もう実行してしまっていた。
…後から思えば、たぶん、俺はバレたかもしれないことに動揺していたのだろう。

「…あ、れ?」
「なっ!?手前何しやがる!?」

しでかしてしまったことに一瞬後に狼狽えた俺は、それ以上に慌てた相手の様子にすぐ冷静さを取り戻した。…できればやってしまう前に正気に戻りたかったよ…。本当に我ながら何がしたかったのやら。鳥肌まで立ってるんだけど。証明するにしてももう少しマシな方法があるだろ、自分。
心の中で動揺して意味不明な行動をとった自分に文句を言う。
………。ああ、そういえば…いらない情報だけど、シズちゃんのほっぺは思ったより柔らかかった。お肌もスベスベとかどういうことだ、平和島静雄。大体顔真っ赤にしてる理由が分かんないんですけど?なにそれキモい。
ぼんやりとそう考えて。どうやら自分がまだ動揺しているらしいことを知る。
そんなことより、ぱくぱくと口を金魚みたいに動かすシズちゃんにどう言い訳するか考えた方がいいのだろうに。

「〜〜ッ!!てめっ、一体何考えてっ」

それは俺が聞きたいよ、と言いたいところだが。言ったところでどうなるものでもないし。
相手があまり狼狽えてると自分は逆に冷静になるもんなんだな、と思いつつ、俺はうろうろ視線を泳がせる目の前の挙動不審男を正気に返すことにした。方法は簡単だ。

「もちろん嫌がらせだよ。シズちゃん、バカじゃないの?顔真っ赤にしちゃってさぁ」

実は半ばヤケクソ気味な俺の言葉に。
シズちゃんは一瞬呆けて、それからすぐに目をつり上げた。
真っ赤な顔がさらに真っ赤になって。ついでにこめかみに青筋が浮く。
…わお、これは逃げないとやばいな。
くるりと反転して逃げをうって。

「………こ、のっ、クソノミ蟲がぁぁあああ!!」

シズちゃんの怒声を背後に聞きながら、俺は慌てて池袋からの脱出を図ったのだった。

…とりあえず、接触云々の話は誤魔化せたようで何よりである。










※無意識による、予定外の行動。

…何を書きたかったのか…?一応、後編というか静雄編に続きます。


[title:リライト]