手を繋ぐ
※シズ→→→→→イザ。一方通行の情熱が大暴走。









「…えーと、シズちゃん質問です」

心底困惑した声が静雄の耳を打つ。
頷いた静雄に向けられる赤味の強い瞳は疑問で一杯で、いつもの何かを企むような色は欠片も潜んでいない。
「手短に言え」
許可を声に出してやると、おそるおそるという風情で口を開く。

「これってどういう状況ですか?」
「見たまんまだな」

さらっと言った静雄に返ったのは僅かな沈黙。
次第に変わる臨也の顔色は焦燥と怒りの色を濃くしていく。そして、低く唸って静雄を睨み上げた。
「そういうことを言ってるんじゃないよ。冷静に考えてみてよ?ここは池袋で君のアパート、俺は何故か君のベッドでついさっきまで気絶してて、それで俺は君の大嫌いな折原臨也くんです。あ、ここ重要ね。で?」
「で?って何だ」
「これ、どういうこと?」
ずいっと突き出した手には、決しておもちゃではない頑丈そうな手錠。だが、この際そこは問題ではない。問題なのはただひとつ。
さきほど突き出した時、静雄の腕が臨也の腕の動きにつられてまったく同じ方向に揺れたことだけだ。

「なんで、こうなっちゃてる訳?」

臨也の右手と静雄の左手。片手同士繋がれた手錠は蛍光灯の光を反射し鈍い銀色を放っている。
それをずいっと静雄の目の前に押し付け、臨也はますます眉を吊り上げた。

「門田とつるんでる女いただろ」
「ああ、狩沢…だったっけ?」
急な話題の転換に臨也の無駄に回転の速い頭は問題なく付いていき、勝手に口から言葉が零れる。
なぜだかよく分からないが、無性に嫌な予感がした。
「そいつがくれた」
予感的中。
「や、それこの状況の説明になってないから」
絞り出した声に力はない。この状況の根本の原因はどうやらその狩沢とやらにあるようだったが、それはこの状況の理由とイコールにはならないのだ。
この状況、それを作り出したのだろう張本人は、どこまでも剣呑な目で己を睨む臨也に、そうかと気にした様子もなく頷いて答えを口にする。

「そいつが言うには、手前を捕まえておくにはこれくらいするべきなんだそうだ」
「うんなんとなく嫌な予感がするからその先は出来れば永久に言わないでほしいな。っていうかむしろ言うな。何も口を開かずに今すぐ俺を開放してそしてどこかでくたばってくれ」

続けようとした言葉を遮って一息に今の心情を吐き出す。だが、さすがは臨也の思い通りになったことのない男。全く無駄だった。

「手前いい加減逃げまわんの止めろよ」
「ひとの話を聞け!」

意味が分からない言葉の意味を正確に悟ってしまった臨也が叫ぶ。

「もう十分だろ?だから」
「言うなって言ってんだろ!!何!?何でいつの間にそんなフラグ立っての!?っていうか立てた覚えないしそもそも俺シズちゃんにそんなこと望んでないよ!!!」
「手前はこんな時でも嘘ばっかつきやがるな。だが、」
「黙れ!その口閉じろ!!自分のキャラを見失ってどうすんの!?すっごく気持ち悪いってッ!!」
「臨也」
「ひとの話をきけぇぇぇ!!!」

―なんなの?何が起こってんの?ありえない、ありえないよ!どこをどうしたらこんなことになるっての!?

パニックを起こしながらもどこか冷静に臨也は自身の状況は把握していた。そんな自分が心底嫌になる。
知りたくもなかった天敵の告白を聞かされそうになっている事実から全力で目を背けたかった。
とにかく逃げねばという恐怖と焦燥に素直に身を任せ、

「と・に・か・く!まずはこれ外して!」

かつてないほど必死に叫んだが、返ってきたのは無情な回答だった。

「外れねぇよ」
「はい?」
「鍵はない」
「…は…?」
「貰わなかった」
「………え」
「もう逃げなくていいから、諦めて認めろよ」
手前も俺が好きなんだろうが。そう言い切った静雄に、臨也は完全に動きを止めた。
目の前の相手を凝視する。
「…………」
「聞いてんのか臨也」
ずいっと近づけられた顔にようやく我に返る。
「ッ!!!」
喉も表情もひくりと引き攣った。
「ああああああぁぁぁぁ!!!外れないとかあり得ねぇから!鍵どこ鍵!!」
「だからねぇよ」
容赦なく無情な一言が、鉄槌となって振り下ろされる。
ヒクと凍った表情で静雄をおそるおそる見上げた臨也は、今なら神にだって祈れそうだと思った。…もっとも、そんなにわか信者はどんな神様だって助けたりはしないだろうが。
手錠で繋がれたままの片手同士が力ずくで合わせられ、臨也は本格的に鳥肌を立てる。
「ヒッ」
情けない声が口から漏れたが、そんなことを気にする余裕などその辺の糸くずの先ほどもない。
そんな臨也の青ざめて怯えきった表情などまるで無視し、静雄はそっと唇を寄せてくる。
それ自体は触れるだけのキスとも呼べないようなキスだったが、完全に硬直し自失した臨也は噛み付いて反撃することさえ思い浮かばなかった。
ごくりと喉を鳴らす相手を見上げたまま、完全に思考が停止している。

「とりあえず三日間休みを貰ってるから、その間に手前を完全に俺のもんにするって決めた」

覚悟しろ。と至近距離で獰猛な笑みを浮かべる男に、臨也は気が遠くなるのを感じた。










※イザイザ好き過ぎて監禁も辞さないシズちゃん。
傾向としてはギャグだけど臨也的にはもうデッドエンド確定のホラーでしかない。
甘いの書こうとしてなぜこうなった。


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