デリック誕生日おめでとう!
※デリ誕祝いにデリ臨小話。ピクシブに上げていたもの。あ、タイトル付けるのは放棄しました…














「デリック、誕生日おめでとう」
なんて、恋人に何の感情も込めずに言われてみろ。
泣きたくなるだろ!?泣きたくなるよな!?
そう半ば以上いじけながら、デリックは心の中でだけで叫ぶ。
何故心の中でかというと、情けないことに面と向かって文句を言う度胸がなかったからだ。



まあ、ともあれ。
そんな感じで始まったデリックの誕生日は、何もないまま外出中に終わろうとしていた。

現在の日付は、PM11:35。
結局お祝いなんてこれっぽっちもしてくれる気がないらしい臨也はデリックの先を歩いていて。
デリックの悲しげな視線を気にする様子もない。
ちぇっと呟いて、視線を空へと向ける。
ビルの隙間から覗く空に星は見えない。
それにまた落ち込んで溜息をついて、デリックは、今頃津軽と仲良くやっているのだろう兄を思い浮かべた。
彼らはすごく仲がよくて、それがうらやましくないといえば嘘になるけれど。
自分の好きな人はこういう素っ気ない人なのだと理解しているから、側に居させてもらえるだけで我慢すべきだとそう思う。
…断じて、自分に興味がないから素っ気無いのだと思いたくなかった。
と、他所事を考えて、臨也以外の周囲に対して疎かになっていたのが原因だ。

「ぅわっ…!す、すみませんっ」

肩に衝撃。
はっとしたデリックは慌てて当たってしまった人に謝罪する。
相手はちらと見ただけで何も言わずに行ってしまったけれど、デリックもそれを気にする余裕はなかった。
臨也の姿がない。
さっきよりもさらに慌てて、キョロキョロと辺りを見回す。
が、やはりあの黒尽くめの彼の姿はなかった。

置いて行かれた、と呆然とする。

いや、別に帰る家は一緒なのだし置いていかれたところでどうということはないのだが。
でも。
今日は、それが酷く堪えた。

「………ッ」


じわりと目頭が熱くなるのを感じる。
次第に目元を潤ませていくそれが零れてしまわないように、上を向いて堪えようとして――。
その時、誰かに袖を引かれた。

「デリック、何してるのさ?」

聞こえたのは、行ってしまったはずの人の声。

「え?あ、臨也さん!?」
「な、なに?何かあった?」

思わず大きな声を上げたデリックに、臨也は目を丸くして首を傾げている。
どうやら、置いて行かれたと思ったのは自分の思い過ごしであったらしい。
ほっとする彼に、臨也は首を傾げたまま言った。

「ついて来てると思ったらいないんだもの。どこに行ったのかと思ったらこんなところで立ち止まってるし、どうしたのさ?」
「あー…はは、ちょっとよそ見してたら人にぶつかっちゃって」
「……君って」

何故か、はぁと大きく溜息をつかれる。

「ホント大きな子供だよねぇ。後ろをついて回ってると思って油断してたらすぐどこかにふらふら行っちゃうし」
「…すいません」

デリックとしてはあまりそんなつもりはないけれど、確かに何かに気をとられると足が止まったりそっちに行ってしまう傾向があるのは認める。
素直に謝罪すれば、臨也は「まぁ、実際君まだ1才だしね」とまた溜息。

「君は本当に手がかかってしょうがないよ」
「………」

呆れを含んだ声にしょげて項垂れたデリックは、臨也さんだって手がかかるし、と心中――もちろん面と向かって言う度胸がなかったからだ――で反論する。

「…まあいいや。じゃ、行こうか?」
「あ、はい」

帰ろうと示されて頷いて、臨也が歩き出すのを待つデリック。
そんな彼に何を思ったか。
臨也はむうと眉を寄せて、何事か考えて。
それから、
「あー……もう」
と、溜息混じりに零した。

「デリ」

呼び掛けとともに差し出されたのは、手だ。
その意味が分からなくて、デリックはただ、細くて長い、綺麗な指にそのまま見惚れた。
そんなデリックをしばらく待っていた臨也だったが。
数分もすると痺れを切らしたのかさらに手を伸ばしてきて――

――強引に、手が繋がれた。

「い、臨也さん…?」

驚きのあまり声が裏返った。
暖かな手の温もりに、心臓が無駄に騒ぎ出す。

こんなこと、今までしてくれたためしがなかった。
臨也は、デリックが何かに気をとられて立ち止まったって気にしないで行ってしまうし、そもそも外ではデリックの存在など無いが如く扱っているというのに。

「君が、はぐれたら困るだろ」
「あ、あの…?」

さすがに臨也のその言に、別に子供じゃないんだし…と苦笑したデリックだったが。
次の瞬間、予想もしない言葉を聞くことになった。

「せっかく、今日一日君を独占できたっていうのにさ」

小さな小さな。聞かせる気などなかったのだろう小さな呟きが、頭の中で繰り返される。
いちにち、どくせん?
え、それって、つまり?え?え?

「え、あの!?い、臨也さんそれどういう――」
「…煩い騒ぐな」
「う…で、でも…っ」
「帰るよ」
「…、…………はい」

どうあってももう一度言ってくれる気はないらしい。
強い語調にそれを理解して、デリックは諦めて頷いた。
手は繋がれたまま。
歩き出した臨也に合わせて、デリックも歩き出す。
隣を歩くなんて初めてだった。
何か新鮮だなと思いながら、これがデートだったら良かったのに、とデリックは胸中で呟く。
そうしたら、自分はとても幸せな気分に浸れただろう。

「帰ったら何か夜食作ろうか」
唐突に、臨也が口を開いて言ったのはそんな言葉。
「え?いいんすか?」
普段は夜中に食べるなんてと文句を言って絶対食べさせてくれないのに。
「たまには、ね」

首を傾げて本当にいいのかと臨也を見つめたデリックに、臨也が振り返る。
気のせいかもしれないが、小さく微笑んだ…ような気がした。

「デリ、誕生日おめでとう」

小さく静かで、だけど柔らかい声が本日二回目の言葉を紡いで。
細い指先がきゅっと力を込めて握ってきて。
デリックは、やばいやっぱり今すごく幸せかも、と頬を緩めたのだった。