それでも世界は回るから、






3.結局当たり前のように『今』は続かない















上りきった屋上に、静雄が到着したのはすぐだった。
段々動きがうまくなるよなぁ、と考えて、自分と静雄のスペックの差を思い知らされるようでじわりと嫌な気分になる。
別にあんな化け物になりたいなどとは欠片も思いはしないけれど、それでも努力では埋まらない差を思い知らされれば不愉快なのだ。
そんなどうでもいいことをつらつらと考えていると。
バキリ、と雨水パイプをへし折った静雄が、凶悪な笑みを浮かべて一歩一歩近づいてくる。
ちょっとしたホラーみたいだよなぁとのんきに思った臨也の思考が伝わったとは思わないが、すっと目を眇めた男が、低く、獣が威嚇するような声で言った。

「覚悟は出来たか、ノミ蟲野郎」
「あのねぇシズちゃん、こんなところに追い込んだ程度で俺を追い詰められたと思ってるの?」

出来ているわけないだろ。する気もないのに、と内心笑って。臨也はすでにいくつかパターンごとに計算済みの退路を横目で確認する。
余程のへまをしない限り、ここからでも逃げ切る自信はあった。

その慢心が、失敗の最大の要因だったのかもしれない。

雄叫びと共に投げられたパイプは折られた場所から鋭利に尖っていて、刺さればよくて大ケガ、悪ければ死に至るようなそんな代物。
当然受ける気などないから、臨也はそのまま逃げを打つために駆け出す。
掠るようにギリギリを通り過ぎたそれは無視しそのまま再び先ほど上ってきた階段に到達した、までは良かったが。

ただ、運命の女神は臨也に味方しなかった。
ぐらり、と身体が傾ぐ。

「え――?」

足場が崩落するなど、誰が思う?
踏み外したのでなく、崩落。もともと老朽化していたのか、それ以外の理由か。いずれにせよ、臨也のいたその場所の鉄板は外れて崩れ、臨也の身体は宙に投げ出されていた。












※いつだって世界は思い通りに動かないから、