それでも世界は回るから、
※シズ⇔イザ(?)ハッピーエンドではない。せさまがついったで殺伐ぅうううううう!!と叫んでたので殺伐じゃないけど殺意100%な無自覚シズイザ。個人的にはハピエンよりは書きやすい気がします。






1.せめて『今』が続くことを何処かで望んでいた















池袋の街中を歩いていて普通なら飛んでこないようなものが飛んでくるのはいつものこと。
ゴミ箱ならまだマシで、標識、ガードレール、ポスト、自動販売機、果ては電柱まで。
どれだけ公共物を破壊すれば気が済むのだと苛立ち混じりに吐き出して、臨也は足は止めぬままにちらりと後ろを振り返った。
あいもかわらず飽きもせずに、臨也の姿を目の端に捉えた瞬間から猛然と追いかけ攻撃してくる男の顔は、不動明王もかくやという凄まじい形相。
せっかくの男前が台無しだねぇ、なんて心の中で哂って目を細める。
予測違わず自身を傷つけるべく放られた看板を避けて、くるりと反転。
意表をつかれた静雄が一瞬動きを止めた隙にその脇をすり抜ける。

「っ!このッ」
「はは、ざぁんねんでした!」

とっさに捕まえようとした手を半歩下がることで避けて、反撃にナイフの一撃をお見舞いしておく。
掠り傷にも満たないようなそれに舌打ちする静雄はさらに青筋を増やして臨也を捕獲すべく一歩踏み出す――が、その時には臨也は看板、手すりと足をかけてビルの外階段――二階へと到達していた。

「クソ、降りて来やがれノミ蟲ッ!!」
「嫌だね。何で俺が君ごときの言葉にわざわざ従ってやらなきゃならないの?それとも何?君はいつの間にか俺に命令できるほど偉くなったの?へぇ、それは知らなかったなぁ?まあよしんばそんなことがあったとしても従ってなんかやらないけど?」
「だ・ま・れ!」

そんでいますぐ死ね!と叫ぶ静雄にククッと喉の奥で笑って、臨也は軽い足取りでさらに上階へと向かう。
すぐに後ろから追ってくる足音がした。

「ホント、シズちゃんってば単純」

すぐ怒る。怒れば周りが見えなくなる。そしてその怒りのまま、全力で臨也を叩き潰そうとするのだ。
ああヤバイ。背筋がゾクゾクする。
誰かが聞いたらこいつはマゾなのか、と引きそうになることを考えて臨也は口元を笑みの形に歪めた。

臨也にとって、静雄は天敵だ。
圧倒的な膂力を持って臨也の張り巡らせた罠を悉く破壊し、それならばと得意の言葉を駆使しても逆に神経を逆なでしてしまう始末。
厄介極まりない天敵。その一言に尽きる。
ホント早く死んでくれればいいのに。そう思う。
だが同時に、臨也にとって、静雄は決して代えのきかない存在だとも理解していた。
たぶん出会った最初から、臨也にとってこの男は“特別”なのだ。
良くも悪くも、と前置きするべき特別な存在。
まったく思い通りにならなくて、そのくせ臨也の心をかき回すだけかき回す、最悪な相手。
死ねばいいのに、とまた思う。
思い通りにならないなら自分の行く道を邪魔するだけの存在なら、と何度も殺そうとして。でも未だ成功していないのは、相手の悪運の強さか自分の詰めが甘いからなのか。
逃げながらもそう考察して、いっきに機嫌が負の方向へ傾いて舌打した臨也は、ちらりと振り返って追ってくる化け物を苛立たしげに睨み付けた。

詰めが甘い可能性を臨也は否定できない。
何処かで今の関係が続けばいいと、そう願っている自分はすでに自覚していた。
静雄は感情の起伏は激しいが怒り以外に関してはさほど強いわけではない。
だからこそ。このまま静雄の強い感情が自分にだけ向けられていればいいと、殺意とは別のところで、そう思ってしまうのだ。

――我ながら、意味の分からない執着だ。

これが恋とかそんな単純に説明のつく感情の発露であれば良かった。…いや、良くはないが、少なくも臨也の中ではそこで決着がついた。
でも、事はそう単純ではなく。臨也はこの感情にいまだ正確な名をつけることが出来ないでいる。


ただひとつだけ言えるのは、臨也にとって静雄がどうしようもなく特別な存在で。
そして。すべて、命すらも奪いつくしてやりたいとそう思っているということだけなのだ。












※それがどんな感情であれ、