Call
※『mail』続編。






side:S 向き合うということ















仕事に戻っても、あの来良の学生の言葉が静雄の頭をぐるぐると回っていた。

それまで、考えたこともなかった。
昔から妙な取り巻きが多い奴だったけれど。
それでも、自分が想うように――彼を想うものがいるとは、考えたこともなかったのだ。

「…ムカつくな」

小さく呟いて、ほとんど無意識に眉間に皺を寄せて。
静雄は小さくした打ちする。
もし、臨也が自分以外の人間を選んだら。側にいることを許して、あの、たぶん自分しか知らない一面を見せるのだとしたら。
そう想像するだけで何もかも壊してしまいたいほど苛立った。
素っ気なく飾り気もないメール越しの彼。
いつもの悪意ばかりの言動や表情を感じさせない簡素な文が、確かにあの折原臨也の一部であることを今はきちんと理解している。
理解して、それを知るのは自分だけがいいとそう思うのだ。

「クソッ」

横の壁をほとんど衝動的に殴る。
罅が入ったそこからパラパラと破片が落ちるが、そんなことは今の静雄にはどうでもよかった。

「…おい…静雄…?」
「あ…すみません」

先を歩いていたトムが若干引き攣った顔で自分を振り返っているのに謝って、静雄は慌てて気を落ち着けるために深呼吸を繰り返す。
苛立ちまぎれに壁を殴ったところで何が解決するわけでもない。
今必要なのは、そんなことではないのだ。

諦められないことはもう分かっている。
臨也が自分以外を選ぶ可能性など考えたくもない。
あのメールを打つ一面を含めて。
あのムカつくどうしようもない最低な人間が、今の静雄が一番欲するものなのだ。

「…腹、くくるか」

手を伸ばさなかったことで後悔するのはもうたくさんだ。
拒絶されても、それでも。
もう諦めるのは止めだと覚悟を決めて、静雄は握り締めたままだった拳を解いた。