Call
※『mail』続編。






side:I 諦めるということ















「少し休んだほうがいいんじゃないかしら?」

唐突にそんな言葉が降ってきて、臨也は顔を上げて声の主に視線をやった。
呆れたような眼差しで見つめてくる相手に小さく溜息。

「おやおや、まさか君が俺の心配をしてくれるとはね?」
「別に心配はしていないわ。ただ倒れられても迷惑だから休養を勧めているだけよ」

素っ気ない言葉はそのままの意味なのだろう。
相変わらずな相手――矢霧波江に、臨也は苦笑した。

「つれないなぁ」
「私が誠二以外を心配すると思うのかしら?」
「…思わないね」

そんな言葉を交わして、また各々の作業に戻る。

静雄に別れ…のようなものを告げてすでに一週間が経っていた。
もちろん、たった一週間で忘れられるはずもない。
胸に巣食う静雄への感情は、そんな簡単で薄いものではなかった。
だから、臨也は仕事を増やして思考が静雄に向かわないように忙しい状況を作り出した。
そうでもしければ、何もできずにただ後悔して過ごすだけだっただろう。

あの時、あの切欠となった最初のメールを静雄に送らなければ、こんな辛い思いをしなくてよかったとか。
そんなことは、もう考えたくなかった。
ただ、もう静雄のことを忘れてしまいたかった。

「…そううまく行かないんだよねぇ」

諦めの悪いこの恋心は、忘れようと努める理性に強く抵抗している。
もうきっぱり諦めたいのに。諦めるために、終わりにしたのに。
それでもふとした瞬間に込み上がる想いが、臨也を翻弄していた。
静雄の中に自分の居場所はない。
メールだって、きっと気まぐれだったのだ。
シズちゃんのことだから、ろくに考えもせずに惰性で続けていただけ。
あのメールに意味などなくて、楽しみにしていたのは自分だけだ。
そう考えて、微かな可能性すら否定する。

――諦めるって決めたんだ…

ぎゅうっと目を瞑って、頭に浮かんだ静雄の姿を無理やり消し去って。
臨也は仕事に集中しようと、大きく深呼吸した。