2.















それは、思い付きなどではない――極めて計画的な犯行のはずだった。



平和島静雄が、折原臨也を好きになったのは8年前。
それこそ毎日のように彼との喧嘩に明け暮れていた頃のことだった。
切欠が何だったのかはすでに忘却の彼方。
ただ、強烈な嫌悪がすり替わったようなそれは、静雄の中に強く強く根付いて、決して消え去ることはなく。
何度も諦めようとして失敗して、そうして、最後には開き直った。
消えないなら消さなければいい。どうせ一生片恋だ。
そんな開き直りから後、彼はただ努力する。
折原臨也が自分を無視できないように。常に自分を意識するように。
それは同時に自身の身に降りかかる災難をも意味していたけれど、それさえ静雄は甘受した。
君ってSっぽいのに実はMだよねぇ…などと呆れた顔で溜息をついた友人に、仕方ねぇだろと彼は言う。
臨也に意識させるには彼の行動を妨害するのが一番で、結果傷つけることもあるのだから、それが自分に跳ね返るのは仕方ない。
臨也曰く『化け物』である自分に臨也は手加減などしない。しなくていいのだ。
そして、そんな関係であっても繋がってさえいればいい。

そう、思っていたのだ。少なくともほんの少し前までは。

「…でも、よ」

高校時代と違い、臨也は自分から静雄に直接ちょっかいをかけてくることは稀になった。
特に新宿に移ってからは、さらにその頻度が減って。
接触が減った分、臨也の視線は静雄以外の『人間』にばかり向けられるようになった。

それでも最初は我慢したのだ。
でも、
「やっぱ、我慢は性に合わねぇんだよ」

一ヶ月くらいか。まるきり姿を見かけなくて苛立って。
そうして、静雄は決意した。
閉じ込めてしまおう。自分以外見ないように隔離してしまおう、と。

計画は綿密に練った。
今までで一番頭を使ったのではないだろうかというほど真剣に考えて、監禁用の部屋まで用意して。
十全に準備をしてから実行した。
腕の中でぐったりと気を失った細身に、わずかに心臓が軋んだけれど。静雄は、自身の欲望を優先してすると決めた。
なのに、どこで計画が狂いだしたのか。

臨也が目を覚ましてからずっと、まるで日常の――臨也と自分の場合決してそれは日常ではないのだが――延長のように過ぎていく時間。
それに翻弄される静雄は、困惑と充足と。その他あまりにも複雑するぎる感情を抱えて、溜息をつくしかない。

「また溜息ついてるの?幸せが逃げるよ?」
「うっせ」

黙れとキスで唇を塞いでやれば、僅かな瞠目の後、臨也は素直にキスに応えてくる。
軽く唇を食んで、そっと舌先で舐めてみれば薄く開く口。
誘われるまま舌を差し込んで、その感触を堪能する静雄を、相手はどう思っているのだろうか。

――本当に、なんでこんなこと許すんだよ。

問いたくても問えない言葉は、今日もただ喉の奥に飲み込まれて終わった。












※計画的犯行、のち困惑。