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それが犯罪であることは、もちろん理解していた。





「うまいか?」
「うん、割と美味しい」

問いかけにこくんと頷く臨也に、静雄は詰めていた息を吐き出した。
元々はカレーくらいしか作れなかったが、この数週間で大分腕が上がっている。及第点をもらえたことにほっとして、もう一口とスプーンを差し出す。

「ん」

ぱくりと食べてもぐもぐと口を動かす相手は、静雄に見られていることも、今の状況もさして気にしているようには見えなかった。
ひな鳥の餌付けみてぇだな…と思いながら何度も同じ動作を繰り返して。
皿の中身が半分ほど減ったところでストップがかかる。

「もう無理。ごちそうさま」
「あ?まだ半分だぞ?」

もう少し食えねぇか?と皿を示すと首が振られた。

「あのね、日がな一日ほとんど動かない生活してるのにこんなに食べられるわけないんだよ」

溜息交じりの声は呆れを多分に含んでいる。
もう食べられないからね、ときっぱり言い切られて、仕方なしに残りは自分の口に運ぶ。臨也の言葉通り、割と美味しい味付けになっていることに満足して平らげて。
それから、皿を洗ってくると立ち上がろうとすれば、袖を引かれた。

「シズちゃん、行く前にあの本取って」
「…おう」

指差された雑誌に手を伸ばして取り出し、手渡す。

「ありがと」

受け取った臨也は、それを雑誌を膝に載せてぱらりと捲った。

ゆったりした部屋着に身を包む彼は至極穏やかな顔だ。
動作も滑らかで、寛ぎきったもの。
だから、彼が自分の意思でここにこうしているのだと、錯覚してしまいそうになる。
だが、現実は違うのだ。

雑誌を捲くる臨也の細い手首には、皮製の手枷。
その手枷に繋がる鎖が床に打ち付けられた金具にとめられていて。
それらは、今の状況がいかに異常であるかを物語っていた。

鎖に繋いで、自由を奪って。
携帯を取り上げて、連絡手段を絶って。
臨也をこのマンションの一室に閉じ込めたのは、他ならぬ静雄だ。

「臨也、デザート食うか?」
「ん?何があるの?」
「…プリン」
「また?本当に好きだねぇ」

くつくつ笑う相手に、静雄は複雑な気分になる。
怒るでもなく、嘆くでもなく。
臨也は静雄の真意すら問うことなく、ただ普段と変わらぬ態度で監禁される状況に不満すら漏らさない。
ただ穏やかな態度で、この部屋に囚われ続けている。

なんでだ?なんで何も言わない?

そう思いつつ、あまりに普段どおりな態度に問うこともできず。
静雄は、ただ黙って、手枷で不自由を強いられている相手の世話を焼き、仕事に行く。
その繰り返し。


静雄が臨也を監禁してから一週間。
それが、静雄の日常になっていた。












※問う勇気がないのは、問いかけて返る言葉が怖いから。