おおかみさんにお願い!
※臨也とドタチンは同級生。















シズちゃんに会いに行くのは日課みたいなものだけど、実際は別に毎日ってわけじゃない。
本当は毎日でも顔を見たいし声を聞きたいけど、実際問題難しかった。シズちゃんは一応社会人で、俺は学生なんだから時間が合わないのは仕方ないと諦めるしかない。
でもさ、その分、俺のこと考えていて欲しいって思うのは悪いことじゃないだろう?
それで、もっと俺のことを好きになって焦ればいいんだ。





「どったち〜ん!一緒に帰ろう!」

そう後姿に声をかければ、ドタチンが振り返った。
少し驚いたように眉を上げて俺の顔を見て、それから頷く。

「……構わないが、今日はいいのか?」

主語がなくても何を問われているのかは丸分かりだ。

「別にいつもいつも行ってるわけじゃないよ」
「そうか?」

首を傾げるドタチンにそうだよと答えて、のんびりと歩く。
「まあ、いいけどな」
「俺、ドタチンのそういう詮索しないとこ好きだなぁ」
「………」

せっかく好きだっていってあげたのに、何故か大きな溜息をつかれた。
溜息ばっかりついてると幸せが逃げるよ、ドタチン。
なんて思ってくくっと笑って。ふと視界に映ったものに今度は意識せずとも自然に顔がほころぶ。

「シズちゃんだ」

休憩中なのか、ぼんやりと煙草を吸っているシズちゃんは、まだ俺達に気付いていないらしい。
トレードマークのバーテン服と青いサングラス。
真昼間には目立つあの格好は探すのに便利だと常々思っているけれど、それ以上に格好良くて見惚れそうになる。

「声をかけないのか?」
「ん、今日はいいかな」
「…?」

訝しげな顔で俺を見るドタチンは、詮索しないくせに世話焼きで。そんなところも割りと面白くて気に入っていた。
だから、ごめんねと心の中で謝っておく。
シズちゃんにはどういうわけか俺センサーがあるみたいで、今さっき、顔を上げて俺の存在に気付いたようだった。 俺にもシズちゃんセンサーがあればいいのにとかちょっと思いながら、シズちゃんには視線を向けずに、ドタチンに笑いかける。

「ドタチン、アイス食べてから帰ろ?」
「ん?ああ、構わないぞ」
「ドタチンって実は付き合いいいよね。お人よしタイプ」
「さっきから何なんだ」
「んー…俺、結構ドタチンが好きだよって話?」
「…そうか」

うん。やっぱりごめん。
すごく複雑そうな顔をしたドタチンにもう一度心の中で謝っておく。
たぶんドタチンは俺のしたいことに気付いてる。それでも付き合ってくれるんだから、やっぱり根が善良な世話焼きタイプだ。
行こうと制服の袖を軽く引っ張ると、また溜息。
少しの間探るような表情で俺の顔をじっと見つめてから、ドタチンはちらりとシズちゃんの方を見る。

「…なぁ、臨也」
「なぁに?」
「視線が、すごく痛いんだが」
「あっは、ごめんね」

シズちゃんって実は嫉妬深いからさぁ、と笑って。
俺はドタチン越しにこっそり視線をシズちゃんに向けた。

「ははっ、睨んでるねぇ」
「…お前やっぱりわざとか…」
「さあ?どうだろうね?」

くすくす笑いでドタチンの腕に抱きついて、行こうと促す。
そうすれば、シズちゃんの視線がますますきつくなった。

「…おい、いいのか?」
「いいんだよ。そろそろさぁ、俺限界なんだよ」
「は?」
「いっつもいっつも側にいるし誘惑だってしてるのに、ぜーんぜん手を出してくれないんだもん」
「………」

呆れた、という顔をしたドタチンが溜息をつく。
何かな?むしろ俺に同情するべきじゃない?こう見えても結構苦労してるのに。
そう思いながら、ドタチンの腕を引っ張って歩き出して。
ちらりと見たシズちゃんにこっそり笑う。

…嫉妬剥き出しの顔だって、たぶん気付いていないんだろうなぁ。
そんな顔するくせに我慢してるとか馬鹿だよねぇ。まあ、そういう意外に真面目なところも好きなんだけどさ。でも、もうそろそろいいんじゃない?俺はシズちゃんほど辛抱強くないからもう限界なんだよ。
シズちゃんはまだそういうのは中学生だから大丈夫だと思ってるんだろうけどね?そんなことないんだよ?
シズちゃん一筋だけど俺もてるし、あんまり我慢してると他の誰かと…なんてあるかもよ?

だから、ね。そろそろ危機感を持ってもいい頃だよね?












※ちょっとは焦って欲しいんですという話。次こそ進展するはず。