おおかみさんの想い人















男は狼っていうけどさ。
俺の知ってる狼さんは、ものすごく忍耐強くて、ちっとも思い通りになってなんてくれないんだ。





シズちゃんこと平和島静雄は、俺の親戚である。
俺より9歳年上で、今は社会人。職業は…まあ置いておくけど。
俺は物心ついた時からシズちゃんが大好きだった。
そして、今。
俺――折原臨也は、彼に恋をしている。


「あーあ…今回も失敗だった」
「君も懲りないよねぇ」

ぷうっと膨れて懲りるわけないじゃんと言えば。
シズちゃんの同級生だったっていう闇医者――岸谷新羅がクスクスと笑う。

「まあ、ほら。静雄だって君の事を考えて我慢してるわけなんだからさ。もう少し手加減してあげなよ」
「手加減なんてしてたら、誰かにとられちゃうじゃないか」

シズちゃんはとても魅力的なんだ。
ちょっと短気だけど、優しいしかっこいいし、油断してたらすぐに誰かに盗られてしまうに決まっている。

「風呂上りもダメだったし、彼シャツもやってみたけどダメだったし…」
「………」
「ああもういっそ直接迫ってみるかなぁ」
「………」
「…何?」

沈黙したまま半眼で俺を見る新羅に、首を傾げて問う。

「いやぁ、最近の中学生って…って思っただけだよ」
「…………」

ああそうだ。俺はまだ中学生なんだよ。
シズちゃんが俺を好きなくせにいまだに告白もしてこないのはそのせいだ。二年前のまだ小学生だった俺に惚れるような男のくせに、変なところ真面目なんだから嫌になる。

「まあ、静雄も相当煮詰まってるみたいだけどね。最近の相談は専ら性欲減退の方法についてなんだから」
嫌になるよね。そんなの聞きたくもないよ。
そう首を振って溜息をつく新羅は、シズちゃんの相談役。俺を好きになったと気付いた時に慌てて相談したのが最初だそうだ。まあ小学生にそんな気持ちになったらさすがに自分の性癖疑うよね。

「とにかくあんまり煽らないようにね。静雄の理性が切れたりしたら痛い目見るのは君なんだから。男同士は色々大変みたいだし準備をちゃんとしてからじゃないとダメだよ」
「分かってますー。それにシズちゃんにそんな度胸あると思えないよ」
「でもキレちゃったら分からないだろ?」
「………」

いっそそうだったらどんなに楽だったろうか。
たぶん新羅が想像するより、ずっとずっとシズちゃんは理性的だ。怒りっぽさとそういうのはイコールじゃない。俺に触りたいくせに、ずうっと我慢してるんだよ。でもさ、飢えた狼みたいな目を必死に隠して我慢され続けるより、俺としてはさっさと告白するなり何なりしてほしいわけ。
俺から告白してもいいけど、シズちゃんの性格からしてそれでも手を出してきたりはしないだろうから。

「…シズちゃんは真面目すぎなんだよ、新羅」
「私としては何分の一かでも君にその真面目さがあったらと心底思うよ」

ムカつく返答を返してくれた闇医者に。
俺はいつか報復したやろうと思いつつ、とりあえず今日のお泊りではどういうふうに攻めてみるべきかと頭を悩ませる。

絶対絶対、シズちゃんの恋人になってやるんだ。

そう決意してもう一年。
変なところで忍耐強いシズちゃんとの甘い日々を夢見て、俺は今日も作戦を練っているわけである。












※互いからの矢印がものすごい両片想い年の差シズイザ。
この話は合同オリジサイトの連動企画で書いたもので、ここから話を広げてみました。

初出:2010.11.21