おおかみさんの恋煩い















たとえば、たとえばだ。
23歳になろうという男が、9歳も年下の子供に恋するというのはやはり問題だろうか。
相手はまだ中学2年になったばかり。
しかも、性別は同じ男だ。

「…やっぱ、マズいよなぁ」

そう呟いて、俺――平和島静雄は溜息をついた。
別に、俺はそういう性癖なわけじゃない。むしろ好みからいけば、年上の女が好みだ。
だが、どこをどう間違ったのか…。

「なぁ、臨也」
「なあに、シズちゃん」

きょとりと俺を見上げる、まだまだ大人には遠い子供の顔をした少年。何度かその特徴的な色彩の瞳が瞬くのを見ながら、さらに溜息が出てしまう。
…こいつが、俺の想い人――折原臨也だ。親戚の子供で、それこそ赤ん坊の頃から知っている相手。
昔から可愛らしかったが、最近は特にその容姿が人目を引くようになってきて。ああ誰にも渡したくないな、なんて思っちまったの運の尽き。俺は芋蔓式(?)にこいつへの困った想いまで自覚してしまったわけだ。
年の差9歳。相手は未成年で、つまるところ、俺は犯罪者予備群みたいな位置にいることになる。
…いや、さすがに手は出さねぇけどよ。

「シズちゃん?」

呼びかけたくせに黙ってしまった俺を訝ったのか、臨也が首を傾げた。
「…ああ、悪い」
そう言って、臨也の頭を撫でてやると、不満そうな顔。
「子供扱いしないでよ」
「子供じゃねぇか」
「…むー」

ぷうっと頬を膨らませた子供は、いいもんそんなこと言うシズちゃんなんか知らなーい、と拗ねてしまう。
そういうところが子供なんだ、と言ったら余計機嫌を損ねそうなのでそれは言わないでおく。
代わりに膨れたままの柔らかくて白い頬を両手で挟んで。

「可愛い顔が台無しだぞ」
そう言った途端眉を跳ね上げて、臨也はふるふると首を振った。
「俺は可愛いんじゃなくて格好いいんだよシズちゃん」
「おーそうかよ」

まだまだ格好いいと言うよりは可愛い整った顔が、俺の適当な返事に文句を言いたげな表情をして。
溜息をついて、止めた。
きゅうっと抱きついてきて俺の胸に懐く臨也に、今俺がどれだけ我慢しているか分かるだろうか。
ジリジリと理性が焦げ付くような、そんな気分。
ダメだ耐えろ犯罪者になる気か。そう何度も頭の中で唱えて、何とか堪えた。
だと言うのに。

「シズちゃんの馬鹿、でも好き」
「…そうかよ」

誰かこの無防備なイキモノをどうにかしてくれ。
そう思った俺は、たぶん間違ってないと思う。












※自覚から実はもう2年。おおかみさんの忍耐はそろそろ限界です。