epilogue.手を伸ばす先の幸せ












side:I





つっと弾力のある唇を指でなぞった俺に、シズちゃんは思いもよらない行動に出る。
「シズちゃん…俺の指は食べ物じゃないんだけどね?」
「ん…?」
かじかじと軽く齧られて、舌先で舐められて。
やっていることがことなのに、性的に見えないのは、シズちゃんの目が穏やかだからなんだろうとぼんやり考える。
指がふやけたらやだなぁと思ってそっと引き抜けば、予想外にあっさり開放された。

「おいしかった?」
「あー…少し塩味?」
「まあそりゃそうあろうけどねぇ」

他意のない返答に苦笑した俺に、今度はシズちゃんの方から手を伸ばしてくる。
髪を潜る指がするりと首に回されて、少しだけ引かれて。
屈み込んできたシズちゃんの顔が近づく。

「そういえば前から思ってたんだけど、シズちゃんってキス好きだね」
「今、言うことなのかそれ」
「いや…なんとなく?」

至近距離で不愉快だと眉を寄せるシズちゃんは、単純だ。
すぐ怒って、すぐ笑う。…なのに、時々予想の斜め上を行くから、微妙に扱いにくい。

「俺、シズちゃんって不思議だなって思うんだ」
「ああ?」
「なんか、俺とはまったく違う生き物っぽいっていうか、なんだろう…?」

うーんと頭を捻って考える。
結局よく分からないけど、たぶん俺なんかと違って、純粋できれいな生き物なんだろうなぁとは思った。

「いっつも思うんだけど、シズちゃん俺のどこがいいの?」
「…何度も答えてるだろうが」
「でも俺とシズちゃんって全然違うし、俺のどこがいいのか全然わからないし」

わかるのは俺が、シズちゃんを好きだってことくらいだ。
ねぇ、ともう一度問いかけようとした俺の口にシズちゃんが自分のそれを近づけて、低く囁くような声を出す。

「ちょっと黙れ」
「…ん」

唇が重ねられて、仕方ないなぁと目を閉じた。
ああもう…。君、俺がその声に弱いって知っててやってるよね絶対。