epilogue.手を伸ばす先の幸せ












side:S





あれから、一ヶ月が過ぎた。
俺の借金は相変わらずで、臨也との同居――というか、同棲だよな…?――は、多少のすれ違いとか喧嘩を繰り返しながらも順調だと思う。





「おはようシズちゃん」
柔らかな声でそう言われて。
もう何回も聞いている言葉だというのに、胸がジンと熱くなるのを感じる。
「おはよう」
と答えれば、臨也は小さくふわりと笑う。
それが、たぶん、俺はすごく嬉しいのだ。
新羅から贈られたという――ちなみにどういう経緯でかは絶対口を割ろうとしなかった――ピンクのフリル付きエプロンを身に着けた黒尽くめの男は、ふわふわとした笑顔を浮かべたままリビングの方を指す。
食卓に座って待っていろということだと察したが、俺としてはもう少しこいつを見ていたかったから、無視だ。

「?…どうしたのさ?」
「別に、なんでもねぇよ」
「ふうん…あ、今日は和食だよ」
「……。あー…別に、フレンチトーストだって良かったんだぜ…?」
「それはいいよ。今度またシズちゃんが休みの日にでも作ってもらうから」

これは…甘えられてる、ととっていいんだろうか。
そう考えつつ、側まで行くと不思議そうに小首を傾げて見上げてくる。
その上目遣いが可愛いというか堪らないんだって、たぶん理解しちゃいないんだろうなぁこいつは。

「シズちゃん?」
「臨也、キスしてぇ」

素直に口にしたら、きょとんとして、何度かそのまま瞬いて。
それから、臨也はぷっと小さく吹き出した。
くすくす笑い続ける姿についつい憮然としてしまう。
なにがそんなにおかしかったのか目尻に涙まで溜めていやがるし…。
一頻り笑った後、臨也はうっすら溜まった涙を拭って俺を真っ直ぐに見る。

「キスしてもいいけど、軽いのだよ?朝から盛られても困るからねぇ?」

そう言って俺の唇に指先で触れて、にやりと笑ってみせる臨也が。
それでも可愛く見えるんだから、俺は相当重症なんだろう。