34.君と…
※イザシズ風味。











side:I





「…おいっ」

焦ったような声を出すシズちゃんに、俺は一応手を止めた。
見下ろす先の、俺に組み敷かれたシズちゃんは本気で焦った顔をしていて。
するりと肌蹴た胸に手を這わせると、ビクリと身体を揺らして視線を泳がせる。


あの後、新宿のマンションに帰るまでの間、お互いどうにも照れくさくて何も喋らずに帰ってきた。
でも自宅に帰った程度では妙に緊張した空気は和らぐはずもなくて。
とにかく一度その空気から逃れたくて、俺を探して走り回って汗だくになっただろうシズちゃんにシャワーを勧めた。
で、たっぷり一時間はかけて出てきたシズちゃんの風呂上りの姿に、あ、ヤバイと思ったわけだ。
ほんのり上気した肌とか、すっごいそそる。
そう考え出したら、もう我慢なんて出来なかった。


「…いや?」
「っ」

情けない顔で視線を定められないシズちゃんに、首を傾げて問うと返答に詰まってさらに眉尻が下がる。
俺もシャワー浴びてくるねと含みたっぷりに言っておいたから、当然伝わっていたのだと思いたいんだけど…。
何だか小動物を追い詰めて苛めているような気分になってきて、小さく息を吐いた。

「い、いざや」
「…なにかな?」
「ちょっと待てよ…なんでいきなりこんなことになってんだ…?」
「なに、シズちゃんはしたくないわけ?」
「あ、や…そうじゃねぇけど…」

困ったように視線を彷徨わすシズちゃんを見下ろして俺は本心を吐露する。
「俺はしたい。即物的だって思われても、俺はシズちゃんに触りたいよ」
我慢したくないと真剣な声で言えば、組み敷いたままの相手はみるみる真っ赤になった。
「〜〜〜ッ」
「ダメ?」
「っ…お前な」
ごくりと喉を鳴らす音。
それでもまだ迷うように揺れるシズちゃんの瞳を覗き込んで。
俺は最後のダメ押しとばかりに誘いかける言葉を紡ぐ。

「シズちゃん、しよう?」

甘く、柔らかく。
囁くような声は十分効果を発揮したらしい。
もう一度、さっきよりずっと大きな音で喉が鳴って。
シズちゃんが震える声で訊いた。

「…いいの、かよ」
「うん。したい」

そろりと伸ばされた手が頬を撫でて、その手の熱さに俺の胸まで熱くなる。
たまらない。欲しい。この存在全部、余すことなく俺のものにしたい。
顔を近づけて、軽く唇をはんで。
囁くような声で問いかけた。

「ねぇ、どっちがいい?」
「あ?」
「だから、上と下」
「うえ?した?」

きょとんとするシズちゃんは、どうやら何を言われているか全然分かっていないらしい。
…まあ、考えてみたらシズちゃんって基本的にノーマルだもんね。俺を好きだって言ったって、そういうこと分かってるとは限らないよね。

「…つまり、俺がシズちゃんを抱くのか、それともシズちゃんが俺を抱くのかって話だよ」
「だっ!?」

さらりと言った俺に、シズちゃんが思わず叫ぶ。
耳元で大声を出された俺はと言えば、破壊音波か何かと思えるほどの声にかなりダメージを受けていた。
くらくらする頭を振って、酷いよシズちゃんと俺の鼓膜破る気?と呟く。

「あ、悪ぃ…」
「…今度から気をつけてよ」
「お、おう」

頷いて、それからシズちゃんは眉根を寄せてある程度予想していた問いを発した。

「………手前は、経験あるのかよ」
「そういう君は?」
「…………」

途端黙る池袋最強に思わずぷっと噴き出してしまう。
沈黙は肯定だと思わないかいシズちゃん?

「まあ、君が童貞なのは想像に難くないけどね」
「…悪いかよ」
「いや、むしろ嬉しい」

にっこり笑って言って。
俺はその唇にひとつキスを落とした。

「もしシズちゃんに抱かれた女がいたとしたら、俺は嫉妬で何するか分からないよ?」
「…物騒なやつだな」
「そういうのは嫌いかな?」
「…手前が実は最低レベルに性格悪いのは理解してるつもりだ」
「はは、何を知られてるのか気になるなぁ」

ことりと首を傾げてみるが、シズちゃんはわざとらしく深い溜息をついて見せただけだ。
新羅に何も聞かなかったというのなら、それほど今までの悪行の数々がばれているとは思えないけど…少し“身辺整理”をしたほうがいいかもしれない。今更シズちゃんを巻き込む気はないし、人間観察もほどほどにしておこう。
そう思って、俺はそこでその思考をストップさせた。
今はそれよりしたいことがある。

「まあそれはとりあえず置いておくとしてさ…どっちがいい?」

シズちゃんの服をゆっくり脱がせながら問う。

「…手前は…どっちも経験あるのかよ」
「んー、男とはないかな」
からかうように、でも、とわざとらしく間を持たせて、それから言う。
「女の人とは、こっち使ってしたことあるよ」

こっち、と触れて示してやれば、シズちゃんは大きく息を呑んだ。
また視線が泳ぎだしたけど、驚いた感じはないので知識としては知っていたらしい。
じかに触れたわけでもないのに身体を強張らせて俺の次の行動を窺うシズちゃんが、何だか可愛い。

「いや、そこまでガチガチにならなくても」
「う…いや、あの…だな」
「うん、そうだね。まあ、仕方ないかぁ」

可愛いけど、まあそういうことするの自体初めてなんだろうしねぇ。あ、もちろん酒の一件はノーカウントだ。だってあれは挿入してないし。

「シズちゃんは俺にしたい?」
「……そりゃ…ぅ…でも、」

顔を真っ赤にして頷いて、でも俺の行動に押されて手も足も出ないシズちゃん。とても強引に俺を捕まえた男と同一人物には見えないなと思ってしまうのも仕方ないだろう。
まあいいか、シズちゃんだし。
そんなふうに納得して、俺は思ったままを告げた。

「今回は俺が女役やってあげる。でも、初めてだからできるだけ優しくしてよ?」
「…い、いいのか?」
「ま、仕方ないしね。俺で童貞卒業させてあげるよ」

クスクス笑ってシャツを脱ぎ捨てて。
シズちゃんも下脱いでよと促す。脱がないと剥くよという言葉は意外に効果絶大だったらしく、慌てて脱ぎ捨てたシズちゃんに、ついつい声を立てて笑ってしまった。












※…まあ、ドキドキしてて落ち着かないのは俺もだけどね。