27.思い通りにならないもの











side:I





意識が浮上して、うっすらと目を開けて。
その視界の端に移るものに視線を動かして、俺は固まった。

「しず、ちゃん…?」
「っ、目ぇ醒めたのか」
そう言って、俺に向かって伸ばされていた手が動いて。
反射で身体を引かせてしまってから、俺は呆然と呟く。

「なん、で…」
シズちゃんがいるの。

まだ最後の計画は実行前だ。
まさかその前にばれたとか?そう、まだぼんやりとして働いていない頭で考える。

「…手前を探してたら、新羅に会ったんだよ」
「…そう」

探してたって、なんで?俺、ちゃんと仕事で帰れないからって言って出たよね?

「臨也。仕事、まだ終わらねぇのか?」
「……まだだよ」
「帰ってこねぇ気じゃないよな?」
「帰るよ。っていうか、あそこ俺の事務所でもあるし」
「…そうか」

一瞬ほっとしたような顔をしたシズちゃんは、そのあと表情を引き締めて言葉を続ける。

「なぁ臨也、俺はあそこに居ていいのか?」
「…なに?出ていきたいの?」
「そうじゃねぇよっ。ただ――」

無意識にだろう。伸ばされた手。
あまりにも無防備に俺に伸ばされるそれに。
急に、怖くなった。
シズちゃんは俺が何をしてるか、何をしたか、知らない。彼がそれを知ったとしたら、一体どんな反応をするのか。
そんなふうに思考したのは一瞬。

「っ、触るな!」

ばしりとその手を叩き落とす。
怖かった。一瞬の思考が行き着いた先。ばれればそうなるだろう未来。
最初から分かってて後戻りなどしないつもりでここまで来たけど。
でも、怖い。この手が、二度と自分に向けられなくなることが、今更ながらに怖くなった。
そして何より、そんなふうに考えるようになった自分が、一番怖い。

叩かれたそれを引っ込めるシズちゃんは、傷ついた顔をしていた。
サングラスをしていないから、はっきりと分かる色素の薄い目。
それが、苦しげに眇められて。
俺は、自分でやったことなのにその姿を見ていられなくて、点滴の針を引き抜いて部屋を飛び出していた。












※いまさら後悔したって、遅いのだと理解していた。