26.あと一歩が踏み出せない











side:S





ベッドに横たわるその姿に。
柄にもなく胸が熱くなった。
2週間と1日。つまり半月だ。半月会わなかった相手の姿を見て、俺は酷く安堵していた。
この姿を何度街中で探したことか。

「…またぶっ倒れたのか?」
「うん。いつもの寝不足と栄養失調。でも今回はそこそこ深刻だったみたいだ」
「………」

確かに顔色は良くない。
もともと白い肌だが、今は紙みたいに真っ白で。
その原因だろう自分に腹が立った。
あの時、臨也を拒めていたら何かが違ったのだろうか。あの翌日、臨也に「別にシズちゃんが好きな訳じゃないから安心してね」と言われて「俺だってそう言う意味で好きなわけじゃねぇ」と嘘の答えを返さずに、本心を告げていたら。あるいは何かが変わったのだろうか。

「…いや、それはねぇな」

自分の気持ちを伝えたとしても。
臨也が示す反応がプラスにせよマイナスにせよ、臨也が俺を恋愛感情で好きでない以上、むしろより関係が悪化する可能性の方が高かったろう。
穏やかな寝顔を眺めながら、溜息をつく。

「静雄、臨也が起きるまでいるならそこのイス使っていいよ」
「ああ、ありがとよ」

イスを引いてきて、そこに座って。
寝顔をただひたすら見つめて。
起きたら、何と言えばいいのだろうと考えていた。

覚悟を決めたつもりだった。
実際、もう耐えられそうにないからどんなことをしてでも連れ戻そうとしていた。
やっと、見つけたのに。












※触れたいと無意識に伸びた手は、結局それ以上動かなかった。