22.幸せなんてありえない











side:I





ああもう、イヤだなぁ。
そう胸中で呟いて、窓越しの青い空を見上げた。
今頃シズちゃんも同じ空を見ているかもしれない。
そんなことを考えて、いやさすがにそれはないかと首を振る。
シズちゃんはあの一件から、少し俺と距離を置くようになった。困ったようなそんな顔で俺を見るシズちゃんを見ていると、俺の中ではいつだって在庫切れ寸前のはずの罪悪感が沸いてくる。あんなことをするつもりじゃなかっただけに余計にだ。

「…どうしようか」

俺がシズちゃんをそういうふうに好きなのは事実。あの一件以外では微塵も見せていないつもりではあるが、疑われている可能性は大だ。

「馬鹿馬鹿しい」

シズちゃんにばれていたら、なんて戦々恐々するのは性に合わない。
いつの間にかずいぶん臆病になっているらしい自分を笑って。
俺は手にしていた書類をテーブルの上に置く。
この仕事で今抱えている大きな案件はとりあえず片づく。
いい機会かもしれないなと呟いて、スケジュールをざっと確認して。
俺は問題なさそうだと頷いた。
シズちゃん側の意識の問題である以上、俺がどうこうするのは逆効果だろう。だから。

「…少し、距離を置くか」

それが一番良い気がする。とりあえず互いが視界に入らなければ、これ以上こじれようもないだろう。
そう考えて、俺は自嘲気味に笑った。
…どこが一番良いんだ。
一番良いのは、シズちゃん――平和島静雄をここから、俺の側から解放してしまうことだ。それが彼にとっては一番良いに決まっている。
でも、それだけはしてやれない。俺はもう、シズちゃんが俺の手の届かないところにいくのは我慢できない。…だけど、こんな男に惚れられてると知れば、いくら義理堅いシズちゃんでも逃げるかもしれないから。
だから、少しだけ時間と距離を置いて。
その冷却期間の間に、計画を進めてしまおう。












※結局、追いつめられているのは俺の方なのかもしれない。