21.どうかどうか、どうか。











side:S





人という生き物はなぜこうも愚かしいのか。
そう思いながら、俺は空を見上げた。
視界に広がる澄んだ青すら今の鬱々した気分を晴らしてはくれない。

「…クソ」

少し遅めの昼食の後。
ここ最近にしては珍しく誰にも絡まれるなかったんで、俺は休憩をとっていた。
しかし、頭の中を占めるのは臨也のことばかりで。
これなら体を動かしていた方が少しはマシだと溜息が出てくる。

「どうすりゃいいんだろうな…」

臨也の家に帰っても最近じゃ心が休まることがない。
ふとした仕草や表情に、あの時を思い出して欲情する自分を抑えるのに必死だった。
以前より明らかに硬化した俺の態度に、最初は臨也も困ったような顔を見せていたが今では諦めたらしい。
「シズちゃんは悪くないよ」と言った臨也の顔が目に焼きついていて、思い出すたび心臓がぎゅっと引き絞られるように痛む。
我ながら馬鹿みたいな話だ。

「臨也」

好きだ、と言えたら楽になれるだろう。
だが言えばそこで終わりなのだ。
それが分かっているから、絶対にこれだけは言えない。
臨也は俺に対する態度を変えていない。つまり、意識していないということだ。
臨也の俺への興味は、俺が他人と明らかに違うからのものだということは、最初の出会いからして明白だった。臨也にとって俺はあくまで観察対象でしかない。
そのことが酷く苦しかった。
でも。
それでも俺は、もうあいつから離れるなんてできないくらい、あいつが好きになっていた。

「………馬鹿だよな」

小さく呟いて、短くなった煙草を携帯灰皿に押しつけて。
俺はゆっくり目を瞑って、臨也の姿を思い浮かべた。
わがままは言わない。高望みもしない。
だから、どうか。












※俺がお前を想うことだけは許して欲しい。