16.積み重ねる嘘










side:I





あの日からも、シズちゃんの態度は変わらなかった。…少なくとも、表面上は。
でも、日に日に増えるかすり傷とか切り傷とか。そういうところは、変わった。シズちゃんはそれを俺が見咎めるたびに、酷く申し訳なさそうな顔をする。
それで、償うみたいに俺に優しくしようとするのだ。

「馬鹿だね」

小さく、キッチンにいるシズちゃんに気付かれないように呟く。
シズちゃんは、馬鹿だ。君が最近やたらと絡まれたり襲われたりするのも、そのせいで借金がどんどん増えていくのも。全部全部、俺のせいだっていうのに。心配しているふりをして、心配だと嘘をついて、する気もないのにシズちゃんが断るのを知っていて俺が裏から手を回して何とかしようか?なんて言ってみて。全部全部嘘なのに。態度も言葉も、嘘だらけなのに…。
溜息をひとつついて、微熱のせいでぼんやりした頭で次の計画を実行に移す時期について考える。
計画が順調なのはいいことだが、あまりにうまく行きすぎると、どこかでどんでん返しがありそうで怖かった。

「少なくとも、ばれたら嫌われるだろうな」

ばれたら、シズちゃんは俺を殴るんだろうか。そういえば、俺はシズちゃんの暴力を直接受けたことはない。あの破壊神みたいなシズちゃんと対峙するのってどんな感じなんだろうか。
対峙する気もないくせに、そんなことを考えた。
嘘の言葉を積み重ねて、俺はシズちゃんを手に入れようとしている。
でも、ひとつだけ。
嘘でも言わないと決めたことがあった。
それを言ったら、すべてがそこで終わってしまう気がするから。
だから、俺はそれだけは言わないんだ。












※俺の愛は歪みすぎてて、誰かに受け取って貰えるようなものじゃないって、ちゃんと知ってる。