14.伝える気はないんだ










side:I





ぎろりと睨まれて。
俺は一瞬怯んだ自分を奮い立たせて口の端をつり上げた。
今のキスに意味なんてなかった。計画には不要なもので…ただシズちゃんの意識を俺に向けさせたかっただけだ。
これでシズちゃんが怒って暴れたとしても、暴れなかったとしても。俺が立てた計画には、たぶん影響しない。
それが分かっているからこその、たった一度のキスは、思ったよりも俺にダメージを与えてくれた。

「ははっ、ごめんごめん。もうしないよ」
「………」
「そんなに警戒しないでよ。本当にもうしないからさ」

そう言ってあげると、シズちゃんは深く溜息をついて、仕方ねぇヤツだなと呟いた。

「もうすんな」
「うん。キスは好きな人とだけ、だろ。了解」
「………」

本当に分かってるのか?と言わんばかりの眼差しを向けられて、苦笑するしかない。
もうしないさ。したって空しいだけだから。最初から一回だけと決めていた。だから、もうしない。
そのかわり、もう二度と君を自由にしてやる気もないんだけど。

「そういえばシズちゃん。また、自動販売機壊したんだって?」
「あ、あれは…変な連中に絡まれたから、つい…」
「…君ねぇ。絡まれたからっていちいち相手してたら、いつまで経っても借金が減らないよ?」
「…悪ぃ」
「まあ、俺は別に構わないけどさ」

君はそれじゃ困るだろう?と言ってやれば、ああ、と頷いて反省顔。
ホント単純だねシズちゃんは。今日君を襲った連中を雇ったのは俺なのに、そんなこと思い付きもしないんだろう。

「でも君にケガがなくて良かったよ」

我ながらなんて白々しい台詞だ。
そう思いながら、そっとシズちゃんに手を伸ばすと、一瞬緊張したみたいだったけど結局おとなしくいつも通り撫でさせてくれる。

「いくらシズちゃんが丈夫でもさ。無理しちゃダメだよ?最近じゃ刃物とか持った連中だっていたりするんだから」
「…それくらい平気だぜ?」
「だーめ。無理は禁物。いいね?」

大ケガでもしたら困るからね。
どこかの闇医者に口を酸っぱくして注意されたことだしさ。
だから、最低限注意はしてもらわなきゃいけない。

「…心配かけねぇように頑張ってみる」
「うん。そうしてね」

くしゃくしゃとシズちゃんの頭を撫でて。
俺は、胸の奥でこれからずっと味わうだろう痛みを感じていた。












※それでも、どんな嘘をついてでも、この手を離さないと決めたから。