10.何かが違う朝










side:I





朝起きたら、シズちゃんが明らかに寝不足ですって顔をしていた。

「シズちゃんどうしたの?」
「…何でもねぇよ」
「?」

ふいっと顔を逸らされて。
俺、昨日何かしたっけ?と考える。
昨日は、シズちゃんと二人で酒盛りをして、何だかどうでもいいようなことを喋った気はするけど。

「シズちゃん?」
「何でもねぇ」

何でもねぇよ、気にすんな。
そう言うシズちゃんの顔は、何だか昨日までと違う気がした。
何か言いたそうなのに、何も言わない。
さっきは逸らした顔を今度は真っ直ぐこちらに向けて。
シズちゃんの色素の薄い茶色の目が、俺を見据えていた。

「しず、ちゃん…?」

酷く真剣な目だ。
俺も視線を逸らせなくなるほど、真剣な目。
何を考えているのだろうか。

「臨也」
「うん」
「今日、遅くなる」
「…分かった」

シズちゃんの言葉に俺は呆けたまま頷いた。
君が言いたいことはそれじゃないんだろ、と言いたかったが、言ってはいけない気がした。

「今日は手前はずっと家で仕事だったか」
「うん、そうだけど」
「…頑張れよ」
「俺はいつでも頑張ってるんだけどなぁ」
「趣味にばっかりかまけるんじゃねぇぞって意味だ」
「えーっ、人間観察は俺のライフワークだよ?それを取り上げようって言うのかい?」
「程々にしろって言ってんだよ」

ぎろりと睨まれて、おやと思う。
そう言えば、最近街で絡まれるとシズちゃんに助けられるものだからついつい慢心していた。毎回毎回律儀に助けてくれるけど、迷惑だったのかなと考えて、まあそれもそうかと胸中で頷いた。
仕事を中断してまで俺を助けてくれるのはシズちゃんが義理堅い性格だからで、俺とシズちゃんの関係は、結局ただ借金で繋がってるだけのもの。もう一ヶ月にもなるのだ。いい加減、鬱陶しくなってきたのかもしれない。
そう思って、つきり、と心臓が痛んだ気がして、首を傾げた。なんだろう、何か、変だ。変だということまでは気づけたのに。
その理由を考える前に、シズちゃんが席を立って、思考は中断される。

「今日は早いからもう行く」
「ああ、うん」

分かった、と返事を返した俺を一瞥もせず。
シズちゃんは自分が使った食器を片づけ始めた。

「俺は、誰かを好きになったことなんてねぇよ」

すれ違った瞬間。
ぽつりと、呟かれた言葉に。
俺は意味も分からないまま、無意識に心臓の上に手をやった。
それは、痛みに耐えるような仕草だったのだと思う。












※――なにそれ。