9.一難去ってまた一難?
side:S
『女の子に興味ないの?好きになったこととか、ないの?』
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
臨也の言葉は、それくらい予想していないものだったのだ。
「――は?」
首を傾げて間抜けな声を出した俺に、臨也も首を傾げる。
「んー…まあ、それはないかぁ」
勝手に自己完結したらしい。
臨也はふぁ、と小さく欠伸をして、目を擦って。
俺を見る。
「シズちゃん、俺眠い」
「…そうだな。そろそろ、寝るか」
「んー…シズちゃんも?」
「ああ、寝る――っておい!?」
頭が真っ白になった。
俺は何故か臨也に抱きつかれていて。
臨也は、すでに寝息を立てていた。
――近い近い近い!!
もともと至近距離にいたものがさらに近くにいて、しかも無防備な寝顔を晒していて。
俺は動揺のあまり、完全に硬直していた。
「お、おい…いざ、や?」
「ん…」
声をかけるが、返ってきたのは返事とも言えない返事だ。
くたりと力の抜けた体を俺に預けて。臨也はすっかり寝る体勢に入ってしまっている。
んー、と唸って、俺の腹を抱きしめて力を込めてきた臨也の寝顔が視界に入る。
「っ」
元々が秀麗な顔だ。きれいに整った顔立ちに、白い肌とそれに映える真っ黒な髪。さらさらだとすでに知っている髪の触り心地だとか、今は瞼に閉ざされた強い光を宿す赤い瞳だとか、そんなものまで思い出して、俺は一気に顔に血が集まるのを感じた。
触れたい、という欲求は唐突で。
俺は、無防備な寝顔を見下ろして、ごくりと唾を飲み込んだ。
※何かに、気づいてしまった気がした。