8.酒に飲まれる










side:I





可愛いって言いながら撫でていたら、何故かシズちゃんは黙ってしまった。
何か言いたげに睨んでくるもんだから、ついつい笑ってしまう。
顔が真っ赤なのは、お酒のせいだけじゃないんだろうけどさ。ホント、シズちゃん可愛すぎ。
酒で少しぼやけた頭で、そこまで考えて。
俺はくすりとまた笑った。
シズちゃんは可愛い。噂で聞いていたのとは全然違って、結構お人好しで優しくて…うん、いい男だ。もう少し短気でなかったらすごくモテただろう。

「料理もうまいしねー」
「あ?」
「んー…こっちの話ー」

顔もかっこいいし、背も高いし。しかし、この細い体のどこにあんな力があるんだろうか。本当に、謎だ。やっぱり人間は面白いね。
そんなことをぼやけた頭でつらつら考えて。
俺は、あれ?と首を傾げた。
何か最近の俺って、シズちゃんのことばっかり考えてる気がするなぁ。と今、気づいた。
シズちゃんを拾ってから、俺の生活はシズちゃんを中心に回っている気がする。今の俺の一番の関心事はシズちゃんなんだから、それは当然のことだけど。
シズちゃんのことを全部知っておきたいとか、何だかそれって恋に似てない?とか思って、苦笑する。
酒でふわふわした頭が紡ぐ、どうでもいいような思考にのんびり付き合いながら。
俺は俺よりは酔っていないのだろうシズちゃんの顔を眺めた。
俺の視線が気になるのか、うろうろと泳ぐ視線が面白い。さっきまでの鋭い視線はどこに行ったのか。まるで子供みたいな反応だ。シズちゃんは、いつも俺の予想斜め上の行動で俺を楽しませてくれる。
もっともっと、色々な表情を見てみたいと思わせてくれる。

「ねぇ、シズちゃん」
「…なんだ?」
「シズちゃんってさぁ、女の子に興味ないの?好きになったこととか、ないの?」

俺の言葉に、シズちゃんは大きく目を見開いた。
ああもう。俺、何言ってんだ。いくら色んな顔がみたいからってこれはないって。
昔から言うだろ、酒は飲んでも飲まれるなって…まあ、もう遅いみたいだけど。












※酔った勢いで出た言葉の意味なんて、その時は深く考えたりしなかった。