7.心臓、異常事態発生中










side:S





「シズちゃん、たまにはお酒でも飲もうか?」

そう誘われて。
断る理由もなかった俺は、臨也と酒を酌み交わしていた。
普段はあまり話さない日常のちょっとした出来事を話したり、つけっぱなしのテレビをぼんやり見たりしながら、たぶん、結構飲んだのだと思う。

「シズちゃん、気になったんだけどさ」
「?」
「シズちゃんって女の子とお付き合いしたことあるの?」

ぶっと、思わず吹いた。
汚いなぁと眉をしかめる相手は、たぶん酔っているのだろう。
いつもは強い眼差しがやけに柔らかくて、赤い瞳がとろんと潤んでいた。
なぜか、それに鼓動が早くなって。
俺は視線を逸らしながら、言う。

「別に、手前には関係ないだろうが」
「そりゃ、そうだけどさ。気になったんだもん」
「もんってな…男がんな言い方しても可愛くねぇぞ」
「あはは、それこそ俺は男だから可愛くなくていいんだよ。ねーねー、結局のとこ、どうなのかな?キスとかセックスとかしたことあるの?」
「っ!んなこと口にすんじゃねぇよ!直裁過ぎだろ手前!?」
「んー…ずいぶん初な反応だなぁ。…あれ?シズちゃんってひょっとしてどーてーだったりするわけ?あははは、池袋最強が童貞とか、結構笑えるねぇ」
「だ・ま・れ!」

けらけら笑う臨也は、確実に相当酔っていた。
ああクソ。からかわれているのは分かってるんだが、すっげぇムカつくぞ手前。
クソッと唸って睨みつけると、くくっと笑われた。殴るほどじゃねぇけど、やっぱりムカつく。

「…シズちゃんってば可愛いなぁ」
「可愛くねぇ」

ぎっと視線をキツくしてやったが、相手は酔っぱらいだ。効果などなかったらしい。
それどころか、臨也はふわりと微笑んで、俺の頭を撫でててきた。

「シズちゃんは可愛いよ」
「…可愛く、ねぇよ」

優しく撫でながら、柔らかな声で言われて、一気に頬が火照った。
心臓がドキドキとうるさい。
ああ、クソッ。
手前の方がよっぽど可愛いんだよ、自覚しろこの馬鹿!












※とりあえず静まれ心臓!