6.飼い主の悩み










side:I





シズちゃんが家に来てから、もう一ヶ月になる。
頑張って仕事はしているみたいだけど、いかんせん物を壊す方が多いものだから、シズちゃんの借金はむしろ増えていたりする。
でも、それ以外のシズちゃんはものすごく手がかからない。元々一人暮らしだったせいか、自分のことは自分でするし、なんと俺に手料理まで食べさせてくれる。思いっきり男の料理だけど、おいしいからシズちゃんの料理はお気に入りだ。
ただ、最近のシズちゃんは、少し変だ。
観察対象としてはおもしろいし、見ていて飽きないんだけど、そうやってしょっちゅう見ているから、逆に気づいてしまった。

「シズちゃん、どうしたの?」

問うてみても、何でもないと返される。
そう言われればそれ以上追求するのも気が引けて、俺は引き下がるしかない。
そう。この折原臨也ともあろうものが、引き下がるしかないのだ。
返答のあとに続けられた言葉に、一緒に食べようね、と言えば、素直にこくんと頷いてくるのに。
なんでこの男はこんなに俺の思い通りにならないのだろう。
そう思いながら、シズちゃんの頭に手を伸ばして撫でる。嬉しそうに細められる目。なんだか、聞き分けの良すぎる大型犬でも飼ってる気分だ。
聞き分けがいいのに、思い通りにはならないってどういうことなんだ?

「じゃ、作ってくるぜ」
「よろしくー」

俺のリクエストに応えて焼きそばを作りにキッチンへ向かうシズちゃんに手を振って。
その姿が見えなくなってから、俺は眉間に皺を寄せて最近よく思い浮かべることについて、また思索を始めた。
先ほどのやりとりの中で、シズちゃんが何度か見せた微妙な緊張感。
俺は存外今の生活を悪くないと思っているけど、シズちゃんにとってはそうでないのかもしれないと、最近になって考えるようになった。
まあ、借金のかたに貰われてきたようなものだし。仕方ないのかもしれないけれど。

「あーあ…難しいなぁ」

こんなこと、シズちゃんと暮らすまで思ってもみなかった。
面白いことは好きだし、これまでもそのための苦労なら別にかまわないとは思っていたけれど。
でも、誰かを喜ばせてあげたいなんて。そんなこと、今まで考えたこともなかった。

「なんだか、変な感じだ」












※どうせならもう少し手がかかってもいいのに、とか思うなんて。