5.飼い犬の悩み










side:S





あの(ある意味)運命の日から、早一ヶ月が経とうとしていた。
俺とあいつ――臨也の同居…というか、むしろ俺が居候な生活は特に何の問題もなく続いている。
ただ、借金の完済はまだ当分無理そうだ。それどころか、昨日もポストを投げてしまい、借金が増えたところだったりする。
かなり、どうしようもない。

「臨也」
「なぁに、シズちゃん」

俺の呼びかけに答えてパソコンから顔を上げた臨也に、「昼飯何食いたい?」と訊けば、「シズちゃん特製ソース焼きそばがいいな」と答えが返った。
この一ヶ月で俺が臨也にしてやれたことと言えば、池袋でチンピラに絡まれた臨也を助けるか、休みの日に飯を作ってやることとくらいだ。
恩返しにもならないようなことしか出来ていない。

「シズちゃん、どうしたの?」
何か落ち込んでる?と顔を覗き込まれて。
俺は一瞬息を飲んだ。
独特の赤みの強い瞳。
それが俺を見つめていて、何でだか分からないが、酷く居たたまれない気分になった。

「何でもねぇよ。仕事、昼までに終わりそうか?」
「うん。大丈夫。ご飯一緒に食べようね」
「おう」

こくりと頷くと、臨也は嬉しそうに笑って俺の頭を撫でてくる。
まるっきりペット扱いだが、もう慣れた。臨也に悪気はないようだし、実際の俺の立場からすればその扱いはたぶん妥当なものなのだろうとも思う。
それに。こんな風に、家族以外に接するなど考えていなかった俺にとって、臨也の他愛もない接触はくすぐったく、心地よかった。

「じゃ、作ってくるぜ」
「よろしくー」

キッチンに向かう俺に手を振る臨也。
俺は、こいつの役に立ってやれるんだろうか。
最近、借金を返すことよりそんなことばかり考えている自分がいた。












※今の生活を悪くないと思ってしまうのは、間違いなんだろうか。