2.まずはあいさつから










side:S





「改めて自己紹介しようか。俺は折原臨也。新宿で情報屋を営んでいるんだけど、知ってるかな?」
「……知ってる」
「そっか。まあ俺も君ほどじゃないけど有名らしいからね」
俺としてはあまり目立ちたくないんだけど。
そう言って苦笑した男の背を追いながら、俺は小さく呟くように名乗った。

「平和島静雄だ」
「知ってる」

そりゃそうだろうよ。
あの時こいつは俺の名前を呼んだのだから、知らないはずがない。
振り返らない背中を睨みつけていると、くつくつ笑って、ようやく振り返った。

「静雄だから、シズちゃんでいいよね?」
「あ゛ぁ?」
「ははっ、そんな風に睨まれても怖くないよ」

くるり、と体の向きを変えて。
折原臨也が俺と向かい合う。
にっこりと笑う顔は人懐こそうなそれだが、酷く胡散臭い、と感じた。

「ねぇ、シズちゃん」
「何だ…」
「俺は君を買ったわけだけど、君は本当にそれで良かったのかい?」
「……他に、選択の余地はなかっただろうが」
「ま、そうかもね」

うん、と一人納得したように頷いて。
折原臨也はまた向きを変えて歩き出す。
ついて来いとは言われないが、追いかけて俺も歩き出した。
少なくともこいつに借金を返すまで、俺はこいつのものなのだと不愉快だが理解していたからだ。

「とりあえず、シズちゃんは今日から俺のマンションに住んでね。仕事はそこから行って、帰りが遅くなる時は電話して」
「…仕事、行っていいのかよ」
「おや?君は俺のヒモにでもなる気だったのかい?まあそれでもいいけど、早く俺から解放されたかったら頑張って仕事しないとダメだよ?」
「…分かった」

ひょっとしたら、こいつは俺をどうこうする気はあまりないのかもしれない。
そんなことを思うほど、軽い言葉だった。

「何か俺に聞きたいことはあるかい?」
「手前は、俺をどうする気なんだ」
「んー…実は特に何かする気はないんだよね。強いて言えば…観察させてもらうくらいかな」
「観察?」
「そう、観察。俺は人間観察が趣味でね。まあ、君は人類の規格外っぽいけど、前々から興味があったんだ。そこに君が追われてるって情報が舞い込んだから、これはチャンスだと思って割り込んだんだけどさ」
迷惑だったかい?と訊く男は、まるで悪びれる様子がない。
自分のしたいことをしただけだと言われては、もう何か問う気も起きなくなるというものだろう。
色々考えるのが馬鹿らしくなって、とりあえず確認だけしておこうと口を開く。

「俺は手前のところにいれば他はいつも通りでいいってことだな?」
「うん。それでいいよ」












※じゃあ、今日からよろしくね、とやつは無邪気に笑って言った。