エピローグ ――3年後
※『猛獣』設定。来神時代。















「…で?」

新羅のその言葉に。
臨也は小首を傾げた。
もうすぐ20歳になろうという男のする仕草ではない。ないが、新羅はそんなことはどうでも良かった。
目下最大の問題は、目の前の小首を傾げる男の行動なのだ。

「どうしたのさ、新羅?」
「どうしたのじゃないよ。なんでまた逃げ回ってるんだい君は」
「…ああ、もう新羅まで伝わったんだ」
「セルティ経由でだけどね」
「…ふうん」

相変わらずシズちゃんとセルティは仲いいんだねぇ。と呟く臨也は、酷く不愉快そうで。
新羅はおや?と眉を跳ね上げる。

「珍しいこともあるものだね」
「…?なにが?」
「君が嫉妬するなんて珍しいって話だよ。そりゃ君は独占欲は強いけど、そんなふうにセルティに嫉妬したことはないだろ?」
「……ああ、そういうことか」

うん、と納得したように頷いて。
臨也は手に持っていたティーカップを皿に置いた。
その表情がどことなく浮かないように見えて、何があったのだと新羅が問うよりも先に、臨也はあのさ、と話し始める。

「新羅、俺さ、シズちゃんが好きならしいんだ」
「…そんなの知ってるけど」
「そうじゃなくて、恋愛的な意味で、好き、らしい」
「………」

やっと自覚したのか。そんな感想が浮かぶ。

「それはおめでとう?」
「なんで疑問形なのさ」
「いや、なんとなく」

しかしだ。なら何でそんなに浮かない表情なのだ。
新羅の尤もな疑問は、だがすぐに解消された。

「シズちゃんと顔合わせるのが今更ながら恥ずかしくなっちゃってさぁ…」
「……つまり、それが今回静雄が君を探し回ってる原因なのかい?」
「うーん…まあ、そうなるかな。あ、大丈夫だよ?気持ちの整理がついたらちゃんと帰るから」
「…………」

難儀な男だ。
こんなのに惚れた静雄に心底同情する。
と、電話が鳴って、新羅は携帯を取りだして――

「静雄くんからだよ臨也」

と報告してみる。対する臨也は「ふうん」と言うだけで大したリアクションはなかったが。

「やあ、静雄。今日は――」
『新羅!そこに臨也の野郎はいねぇか!?』
「あー…うん、いるよ」
『今から行く!引き留めておいてくれ!』

ぶつり、と通話が途切れて、新羅は困った顔をして頬を掻く。
臨也は残った紅茶を飲み干したところだ。明らかに今すぐ出ていく気が満々である。

「…はは、期待に添える自信ないなぁ」

ごめん静雄。君も怖いけど、今は目の前の猛獣を怒らせる方が怖いです。
心の中で謝罪してから、新羅は臨也に問いかけた。

「ねぇ臨也、高校の時もそうだったけど、逃げる以外の選択肢はないのかい?」
「ないわけじゃないけどさ。シズちゃんと一緒にいると整理する前に押し切られるのが目に見えてるんだよ。俺はシズちゃんに甘いからね。だから、逃げるのが一番だ」
「…そうかい」

引き留めるのは無理そうだ。
今止めたら容赦なくナイフを投げてきそうな笑顔で言われては、静雄が来るまで拘留するのは不可能に等しい。誰だって命は惜しいだろう?

「じゃあね、新羅!今度はシズちゃんと一緒に来るよ!」

そう言って、ひらりと手を振って部屋を出ていく臨也に。
新羅は「なるべく早くで頼むよ」と苦い顔で答えたのだった。












※これにておしまい。