18.至る
※『猛獣』設定。来神時代。















心地よい指先が頬に触れて。
静雄は眠い目を開けた。

「おはよ、シズちゃん」
「おー…」

昼だけど、と言う言葉は無視して間延びした返事を返せば。
青空を背に臨也が笑う。

「寒くないの?」
「…あー…いや、寒い」

寒がりの静雄は冬が苦手だ。体の動きが鈍くなるし、真冬の冷気の刺すような寒さは大嫌いだった。
だけど、

「手前がくれたこれ、あったけぇしな」
「あはは、まあこの俺がわざわざ寒がりのシズちゃんの為に探してきたやつだしね」

臨也がお付き合い記念だと数日前に寄越したコートを着る静雄は、あまり寒くないことに満足する。もそりと緩慢な仕草で身を起こす。
一方、相変わらず薄着の臨也は、真冬用のコートで着膨れた静雄を笑ってから、手を伸ばした。
静雄の首に腕を回し抱きついて。

「うっわ、でも冷えてるし」

そう呟く。

「…そりゃあまあな…」
「もう…なんでこんなとこで寝てたのさ」
「手前を待ってたんだよ」
「……室内で待てよ。馬鹿だろ君」
「ここにいたら、必ず来るだろ」
「………」

ああ。本当に馬鹿だね。
そう小さく耳元で囁くように響く臨也の声は、酷く柔らかだった。
静雄は甘えるようにすり寄る相手を抱き返して、暖かな体温を分けてもらいながら、かもな、とやはり小さな囁きで答える。

「好きだ」
「知ってる」
「手前は」
「好きだよ。シズちゃんとは意味が違うけど」
「…一言多いぞ手前」
「事実をねじ曲げて伝える気はないよ」

あきらめてよ、と耳元に聞こえる優しい声。
その優しさに免じて。
静雄は、まあ仕方ねぇかと思う。
これで自分には流されやすいところのある臨也だ。いつか、同じ気持ちを持たせる自信はあった。
その日が一日でも早く訪れることを祈って。
静雄は最愛の幼馴染みの体温の心地よさに、ゆっくりと目を閉じた。












※二度と放す気はないと、その時は敢えて口にしなかった。

静雄さんはこれから約3年臨也に自覚させるために奮闘することになります。
なお、この話の前提設定は、
・1:臨也は静雄に対する感情を理解するまでにこれからさらに3年、愛を告げるのには7年かかる。
・2:静雄→→←臨也くらい。明確な結論は出ない。
でした。先は長いね!