15.舞台裏3
※『猛獣』設定。来神時代。















昼休み――屋上。

「あ、門田くん」
「…臨也はいないのか?」

屋上に上がって来た門田の第一声に新羅は笑った。
すっかり過保護な父親だなぁと思いつつ、頷く。

「うん。今日は一回会ったきりだよ」
「…まだ逃げ回ってるのか…」
「うーん…いや、逃げるのは止めたみたいだよ?」
「そうなのか?」

座る新羅の隣に腰を下ろして、門田は購買で買ったパンの包装を破いた。
一口食べて、溜息。
眉間に寄せた皺に、門田の心配が見て取れて。
新羅はくすくすと笑う。

「心配性だね、お父さん」
「…誰がお父さんだ。…っていうか、あんなのがガキとか御免だな」
「でも懐かれてるよね」
「…………」

答える気はないのか、門田はパクリとパンに齧りつく。
その姿に声を立てて笑ってから。
新羅も愛しのセルティの愛妻弁当(新羅的主観)をいそいそと広げる。
それを横目で見ながら、門田が問う。

「臨也が逃げるのを止めたってのは本当なのか?」
「うん本当。本人が静雄に会いに行くって言ってたからね」
「…ってことは、付き合うことにしたのか」

何とも複雑そうな顔をして、門田はまた一口パンを齧る。
どうやら彼の中には臨也の選択肢は『逃げる』か『付き合う』以外ないらしい。

「門田くんは断りに行ったとは考えないんだ?」
「…断ったとしても、静雄が諦めるとは思えないからな…」

それは確かに。
そう思って新羅は苦笑した。

「臨也もちょっと考えれば分かりそうなのに往生際悪く逃げてたよね」
「…………」
「でもやっと落ち着きそうで良かったよ。このままだと本当に二人の出席日数の心配をしなきゃいけないところだったし」
「確かにな」

門田も頷く。すっかり二人の――主に臨也のだが――保護者的な位置に収まってしまっている彼としてもこれで一安心といったところなのだろう。
だが、新羅としてはまだ安心はできなかった。あの臨也がただで折れるはずがない。自分が納得のいかないことを、あの男は決してしないのだ。
だから、自分を納得させる最後の言い訳に、臨也は間違いなく――。
そこまで考えて、新羅は「ああもう、ホントしょうがないよねぇ」と呟き、首を振った。

「?…どうした?」
「いや、今頃はもう一騒動起きてると思うんだよね。頭が痛いなぁ。せめて放課後までには終わらせて欲しいな、帰りが遅くなるのも家に来られるのも正直迷惑だしさぁ」
「…おい、それどういうこと――」

新羅の発言に門田が訝しげに問いかけたその時。

「いぃざぁやぁあああ!!」

怒声と共に宙に舞った校門のものと思しき鉄柵。
門田は反射で振り向いて、その光景に固まり。
新羅は「あーあ、ホント仕方ないなぁ」と溜息をついたのだった。












※屋上で皆でご飯がデフォルトな来神組。
ここ10日ほどは静雄か臨也のどちらかが欠席でしたが、本日は二人とも欠席です。