11.触れる
※『猛獣』設定。来神時代。















「…あれ?」

おそらく教室にいるだろうと当たりをつけて屋上に上がった臨也だったのだが、勘は外れたらしい。
身体を投げ出して眠る静雄の姿に内心やばいかなと考えた。
下手に動けば感づかれるかと様子を見ることしばし。

「…?」

動く気配のない静雄に臨也は首を傾げる。
そっと足を踏み出して、その一歩に静雄が目覚めないのを確認して。
そろそろと近づいてみた。
覗き込んだ顔に浮かぶのは苦悩の色だろうか。きつく閉じられた瞼と眉間の皺が静雄の夢見が悪いことを教える。

「………」

ここまで至近距離で見るのは一週間ぶりだ。
そろりと手を伸ばしてその髪に触れて。
臨也はああ、と嘆息した。
不愉快だ。納得がいかない。なんで俺ばかりがこんなに悩まなければならないんだ。そんな想いを抱きながらも、触れた手を離しがたい。やはり好きなのだ。それだけはわかる。理屈でなくただ事実として。

「…しずちゃん」

それでも、今の俺は君に同じ気持ちを返せないよ。
触れて、じんわりと胸に宿る好意は恋と呼べるほど明確ではない。これから先だって恋になる保証もない。

「……俺は、」

それでも君といたい。
子供の我侭みたいだ、と苦笑して。臨也は頷いた。

「そうだね。それでいいのかもね」

くつりと笑って髪を撫でていた手を退こうとして――。
その手首をがしりと掴まれた。

「げ…」
「ようやく捕まえたぜ臨也くんよぉ」

いつから起きていたのか。
静雄が口の端を弧の字に歪ませて臨也を睨み据える。
鋭い眼光は喧嘩をしている時のそれと全く同じ。

「…うっわ、こわーい。鏡見ておいでよすっごい顔だから」
「手前いい加減に、っ!」

静雄の声はナイフの一閃で遮られた。
手の甲を傷つけたそれに目を見開く静雄に笑って、臨也は弱まった拘束から逃れる。

「甘い甘い。甘すぎだよシズちゃん」
「………っ…この、クソノミ蟲があぁぁ!」

咆哮を上げて拳をふるう静雄から間一髪逃げ出して。

「そうそう。それでこそシズちゃんだ」

臨也はようやく自身の中に満足のいく回答を得て、嬉しげに目を細めた。












※やっと起承転結の転まできました。