10.舞台裏2
※『猛獣』設定。来神時代。新羅視点の過去回想。















そうだね。ひとつ昔話をしようか。
ああ。昔話と言ったってそんなに前のことじゃないよ?…そうだね、臨也と静雄を引き合わせて一週間目だったから、せいぜい7、8ヶ月前くらいの話だ。





「悪いんだけどさ、俺はいいからシズちゃんの方見てやって」
そう言って臨也が静雄を半ば引きずるようにマンションに連れてきた時。
あの時私は目を疑ったよ。驚天動地というかむしろ胆戦心驚といったほうがいいくらいだった。
そりゃ、僕だって臨也とは中学からのつきあいだし、彼が普通じゃないことは知っていたよ?でもさ、まさかあそこまでとは思わないじゃないか。
静雄と臨也は一週間前に再会を果たした幼馴染同士で、傍目にもずいぶん仲良く過ごしていた。あ、いや。性格的な問題で結構口論はしていたけど、少なくとも、殴り合いの喧嘩に発展するような気配はなかったはずだった。なのに。
「それ、生きてるの?」
「生きてるよ。もうちょっとで殺しかけてたし、殺されかけたけどね」
ぼろぼろの格好の臨也も相当だけど、それよりも静雄のほうが酷い有様だった。あとで調べたら左腕と肋骨3本折って腹部にも酷い裂傷。常人だったら当分安静だろう状態で連れ込まれた彼は、それより軽傷――とは言っても肋骨に罅が入ってるし捻挫と打撲で酷いことになっていた――だった臨也よりも遙かに早く回復したけど。
その時初めて、僕は臨也を怖いと思った。…いや、初めて彼が違う生き物なのだと意識したってところかな。
人間だけど人間じゃない。人間が踏み越えるべきでない一線を越えてしまった生き物として。
そして同時に思ったんだよ。だから静雄なのかって。うん。勿論違った。むしろ静雄だから、臨也がああなんだってすぐに理解した。再会して半年、二人は数え切れないくらい喧嘩という名の殺し合いをして、その度に静雄は恐ろしいスピードで臨也の動きを学習していった。互角の喧嘩になったのはつい最近だけど、臨也はもうそろそろ勝てないかもと苦々しい表情で言っていた。
ああつまり何が言いたいかって言うとね。彼ら二人はどうしようもないくらいにお互いしか見えてないってことなんだよ。静雄がああだったから臨也がああなって、臨也が強くなれば自然静雄も強くなる。離れることなど出来やしない、常識からはみ出した怪物が二匹。迷惑千万なことだ。





「だから大丈夫だと思うんだよ、僕は」
『ならいいが、やはり私は静雄が心配だ』
「セルティは優しいからね。でも本当に大丈夫だと思うよ?」
『…だが、』
「せーるてぃ。そんなことより僕は今君と一緒にいる時間の方が大事――げふっ」
『黙れ。今はそんな話をしている場合じゃないだろう…って、新羅。お前学校に行く時間だろうが!』
「あれ…ああもうそんな時間かぁ」

残念と呟いて、僕は鞄を手に取った。

「ねぇセルティ、今日も臨也を捜すのかい?」
『当たり前だ。…ああ、いや首を探すついでだけどな。今の静雄を見ていると、なんだか黙っていられない』
「そう?」
『ああ』

セルティは優しいなぁ。私はそんなことしなくてもいいと思うんだけど。でも、それも彼女の魅力だからね。うん。嫉妬なんてしてないよ別に。

『いってらっしゃい』
「うん、行ってきます」

見送ってくれる彼女に手を振って、僕は扉を閉めた。

「…さて、ホントそろそろ覚悟を決めてほしいね」

ねえ臨也。逃げ続ける友人の複雑そうな表情を一瞬思い出して。
あんなのの顔思い出しても仕方ないと、僕はセルティのことを思い浮かべることにした。












※新羅は基本傍観者。