9.苛立つ
※『猛獣』設定。来神時代。















わずか一週間。されど一週間だ。
ゆっくりと沈殿する澱のように、臨也の心に積もるそれ。
その不愉快さに、臨也は眉を寄せる。

「ああやだ最悪」

学校へ行くべく支度して家を出たものの、臨也の足取りは重く、溜息をついて空を見上げる。
最近こんなことばかりだ。趣味の人間観察をする余裕すらない。

「…面倒だなぁ」

本当に面倒だ。そう思い眉を寄せて唸る。
恋愛沙汰など無縁だと思っていただけに面倒すぎた。イライラが募るのは何も静雄だけではなく、臨也だって同じなのだ。何よりも。

「いい加減、限界だよシズちゃん」

いっそ殴り合いでもいい。静雄に触れたかった。存在を確かめるように触れ合うのは常で、その接触が失われることがこれほど堪えるとは思っていなかった。手を伸ばせば届く位置にいた人間がいないことがこれほど辛いとは思わなかった。

「…いっそホントに殴ってみようか」

そうすれば少しは気が晴れそうだ。静雄も臨也から攻撃を受ければ一時的にでも怒り以外の感情が霞むはずである。
静雄にとってそうであるかはしらないが、臨也にとっての静雄はこの世で唯一本気で殺し合える相手だった。普通の人間相手に本気を出すことはできないが静雄だけは違う。臨也が本気を出しても静雄は壊れない。最初に殴り合った時にそれを確信したからこそ、それ以降手加減などしたことはなかった。そういう意味でも、静雄は臨也の特別だった。

「…俺にとってシズちゃん以上に特別な相手なんていないのになぁ」

臨也の中では静雄だけが特別だというのに。それ以上を望む男に舌打ちする。
少なくとも今の臨也には理解できない感情を望む相手に、どうすればいいのかわからない。もやもやする。落ち着かない。静雄が望む関係について考えれば考えるほど、わからない。何を望まれているのかわかっていて、それを拒むほど嫌でもなければ喜んで受け入れられるほど肯定的な感情も沸いてこない。…理解できない。この一言に尽きるのだ。

ただ。それでも、これ以上離れていることには、堪えられそうになかった。


「…しずちゃんの、ばーか」

こんなにも自分の心を乱すのは、あの幼馴染み以外いやしないのだと何故理解しないのか。
募る不満をぶつける相手がいないことにまた苛立って、臨也は学校に向かって歩き出した。












※まだうだうだしてました。
いやもうホントそろそろ動けよ…。