8.憂う
※『猛獣』設定。来神時代。















ぼんやりと空を見上げて。
臨也は溜息をついた。
静雄のしつこい追撃をかわすこと7時間弱。
昼すぎから逃げ回っているのでもう結構な時間になる。

「…シズちゃんしつこすぎだろ」

逃げるのにはそれなりに理由があった。
門田にも言った通り、臨也は自分を試している。
自分にとっての平和島静雄がどれくらいの存在であるのか、試しているのだ。

「まあ、本当はそんなことわかりきってるけど」

呟いた言葉通り、結論は出ている。
臨也にとって静雄は絶対に不可欠な存在だ。理由がなく、理屈でもない次元で大切な存在なのだ。

「…でも、こういう融通がきかないとこは嫌いだなぁ」

見慣れた金髪が遠くに見えて、やれやれと思う。
まだ臨也には気づいていないようだが時間の問題だろう。
追いかけ回されるのはそれだけ本気で思われていると考えるべきなのだろうが。
今の臨也には静雄から向けられる感情はただ戸惑うだけのものなのだ。だが、そこを理解してほしいと言ったところで、あの幼なじみが理解するとは思えなかった。
決して頭は悪くないのに思い込んだらなかなか曲げられないあの性格は扱いにくいことこの上ない。真面目と言うよりただ融通がきかない。頑固で頑迷で、臨也の思い通りになったことなどない。そのせいで幾度血を見る喧嘩をしたことか。

「…俺とシズちゃんって、やっぱり相性最悪だと思うんだよね」

理屈が通じなくて扱い難くて想定外の行動を取る、臨也の嫌いなタイプだ。見ていて苛つく。
なのに、

「困ったなぁ」

結局、好きなのだ。
なんでこんなにと思うほど、手を離すなど考えられないほど、好きなのだ。
でも、だからこそ静雄が抱く好きの種類に戸惑い困惑してしまう。

「なんで、ただの好きじゃダメなんだろう」

それだったら簡単だったのに、と呟いて。
臨也は静雄の目から逃れるために雑踏に紛れた。












※臨也さんは理詰めで考えるタイプなので感情で動くシズちゃんが苦手なのです。
次あたりから話を動かす予定です(…次っていつだ)