5.舞台裏1
※『猛獣』設定。来神時代。















二人が走り去って数分もしないうちに、屋上に新羅が現れた。
軽い足取りで門田のところまでやってくる。

「やあ」
「おう、どうした?」
「やっぱり臨也、君に相談しに行ったんだね」
「…」

やっぱりってことは、予想してたのかよ。
そう思ったが、聞いても仕方ないかと門田は黙って頷いた。
ただ。

「あいつら大丈夫なのか?」

疑問は口にする。
臨也の反応は、正直なところ不可解な部分があった。
“自分を試す”と言うが、一体何を試しているというのだろうか。
面倒見がよく臨也にお人よしと称される門田は、やはり二人を心配してしまう。

「大丈夫だと思うよ?」

門田の問いに、新羅はさして気負った様子もなく応じた。

「臨也はさぁ、自分のこと分かってるようで分かってないんだよね」
「そうか?」
「うん。だって、臨也がこの世で個人として特別扱いしてるのって静雄だけでしょ?」

確かにそうだろう。
門田や新羅も多少は他と違う扱いを受けるが、静雄に向けるそれとはまるきり異なる。
臨也にとって静雄だけが特別なのは誰の目にも明らかだった。

「情緒がいまいち未発達なんだよ、臨也は。まあ、僕の知る限りずっと静雄のことだけ考えて生きてたようなものだし、他に目を向ける余裕がなかったんだろうね。だから、恋なんてしたことないしたぶんそれがどんなものかも知らないんだよ。ホントもったいないよね!」

こんなに素晴らしいものなのに!とうっとり――たぶん、新羅がずっと想っている黒バイクの彼女のことでも考えているのだろう――口にするのはしっかり無視して。

「…それは、なんて言うか…一途だな」

意外だという表情をする門田に、新羅はうんうんと頷く。

「だよねぇ!なのに恋じゃないっていうのが面白いよね!」
「…いや、別に面白くはないだろ」
「そうかな?…でもさ、もういい加減静雄も限界みたいだし、そろそろくっついちゃってもらいたいんだよね僕としては」

にやりと笑った相手に、門田は警戒気味に何をする気だと首を傾げた。

「臨也は自分が静雄に持ってる感情が何なのかはっきりと自覚していないはずだから、上手く誘導してあげれば恋だと錯覚するんじゃないかなぁ?」
「…それで後で問題が起きたらどうするんだ…?」
「大丈夫!臨也は静雄を絶対そういう意味で好きになるよっ」
「その自信はどこからくるんだ」

呆れ気味な問いには、とんでもなく無責任な答えが返る。

「いままでずっと静雄一人だけが『特別に好き』だったんだから、それの種類が違ったところで支障はないって」
「………」

問題はあれで変に感のいい臨也をどう誘導するかなんだよね、と計画を立てようとしている新羅を横目に。
門田は大きく溜息をついて、いまだ校内を逃げ回っているのだろう臨也を憐れんだ。












※おせっかいな傍観者と心配性な保護者。