2.逃げる
※『猛獣』設定。来神時代。















数日後。
苛々した様子で教室に入ってきた静雄に、新羅は目を瞬かせた。
あまり近寄りたくないオーラを垂れ流しているのも問題だが、それよりもその隣に臨也の姿がないことの方が気にかかる。

「どうしたんだい?」

無難な質問(かどうかは静雄の機嫌次第だが)をしてみれば。
思ったよりは冷静だったらしい静雄は溜息をついて、新羅の前の席に腰を下ろした。

「臨也のヤツが俺を避けてる」
「は?」

首を傾げ、ここ数日を振り返ってみる。
………。
そう言われればそうかもしれない。
学校には来ていたし普通に話してもいたので気付かなかったが、静雄と一緒の姿を見た覚えがなかった。

「…確かにそうかも」
「あの野郎…ッ」

いつも一緒にいるのが当たり前、ほぼセット扱いな二人が行動を共にしない。
そんな理由は一つしかなかった。

「君、臨也に告白したんだってね?」
「…あいつから聞いたのか」
「うん」
「…逃げる気じゃねぇだろうな、あいつ…」
「いやいやいや!それはないと思うから!だからとりあえず暴れないでよ!?」

掴まれてみしりと音を立てた机に新羅が青くなる。
止める人間がいない状況でそれは洒落にならない。

「…ちっ、別にんなことで暴れねぇよ。ああクソッ、どこにいやがるんだあのノミ蟲ッ」
「そう言えば君がいる時一度も教室にいなかったよね…」

一切の接触を絶っているのは間違いない。
だが、そうする理由が分からなかった。
新羅の知る限り、折原臨也は平和島静雄に通常考えられないほどの執着を抱いている。
静雄が自身に恋愛感情を持っていたことに驚きはしても。
到底、離れるという選択肢を選ぶようには思えなかった。

「でも、あの臨也だからね…」

ポツリと呟く。
変な方向に思考を走らせた可能性は大いにある。

「とりあえず、僕から聞いてみようか?」
「悪ぃ、頼むわ」

盛大に溜息をついた静雄に、新羅は了解と頷く。
静雄の様子を見る限り、苛々してはいるらしいがどうやら焦りの方が強いらしかった。

「まったく、臨也は何を考えてるのかなぁ…」

この世で一番大事な人間に心痛を与える臨也の気持ちなど。
新羅には分かるはずもなく、分かりたいとも思わなかった。












※臨也逃走。