1.悩む
※『猛獣』設定。来神時代。















教室の扉をがらりと開けて。
随分と深刻な顔をしてやってきた臨也に、新羅は首を傾げた。

「新羅、どうしよう」
「静雄に何か言われたのかい?」
「…なんでシズちゃんだと思うのさ」
「君がそんなふうになるのは静雄のことでだけだからね」
「………」

自覚はなかったらしい。
新羅の言葉に臨也はきょとんとした。

「俺、そんなに露骨?」
「うん。静雄のことだけね」
「………」

ふうん、と呟いて、臨也は小さく溜息をつく。

「…シズちゃんに告白された」
「それは、おめでとう?」
「なんでだよ」
「嫌だったのかい?」
「…そうじゃないけど…」
「けど?」
「考えたことなかった」

臨也のその言葉に、それはそうだろう、と新羅は思った。
臨也は人間を愛していると言って憚らないが、個人を愛することはできない。そういう思考を持たないからだ。
だから、化け物と呼びながらも臨也の中で一応『人間』の枠に入っているらしい静雄をそういう対象として見たことはないはずなのだ。
あれだけ特別扱いしながら――彼らは友人だがハグどころかキスも経験済みだ――それでも恋愛感情でないというのだからある意味すごい。

「それで?君はどうするんだい?」

わくわくして問えば、嫌そうな顔をされた。

「…なんで君が面白がるのかそれがわからないんだけど」
「だって君が恋愛沙汰とか、普通に変で面白いよ?」
「なんかムカつくんですけど…」

僅かに視線をきつくして新羅を睨んだ臨也だが。
すぐにまた途方に暮れた顔に戻る。
どうやら頭の中は静雄で一杯らしい。

「君は静雄が好きなんじゃないの?」
「好きだよ。でもたぶん恋じゃない」

たぶん、とか言う時点で結構脈ありなんじゃないかなぁ。
今はいないもう一人の友人には朗報だろうが、新羅に伝える気はなかった。
他人の恋愛だ。余計な口は出さずに楽しませてもらおうと思う。
それが思わぬ事態を招くことになるとは、この時の新羅は思いもしなかったのだった。












※『猛獣』の二人がくっつくまでの話。
続き物ですが、たぶんそんなに長くはならないと思います。