4.食べちゃうぞが冗談に聞こえません
※基本イザ→→→←シズ。ストーカー臨也さん。












「うわっ!!」

自分の悲鳴で目が覚める。
はっ、と息を吐いて、静雄はヤニで汚れた天井に目を向けたままゆるゆると脱力した。

恐ろしい夢を見た。

そうしきりに訴える脳みそに黙れと命じて、ふるふると首を振る。
とにかくさっさと忘れてしまいたかった。
だが。

「シズちゃん、おはよう」

声が耳に侵入してきて、びしりと固まる。
鈍い動きで首を回せば、愉しげに笑む悪夢の元凶と目が合った。

「な、んで…っ…手前がここに居る!!」

怒鳴るが相手は何処吹く風だ。
くつくつ笑いで応じてくる。

「やだなぁ、決まってるでしょ?」

ああ分かってはいる。
何度換えてもすぐに新しい合鍵を手に入れてくる臨也に、ついに静雄が鍵の交換を諦めたのは数日前だ。
だが、この際問題はそこではない。

「なんなんだ、この手は?」

低い声で威嚇するように問えば、これ?と掲げられる。
指を絡ませて繋げられた手と手が、たぶん悪夢の原因の一端を担っている。
それを理解し、静雄は心底ぞっとした。
誰かこのストーカーを永久に葬り去る方法を教えてくれねぇかな。そう遠い目をして思う。
自力で排除するのは、こんなのを殺して警察の世話になるのが嫌なので多分難しい。
さっきまであんなに可愛かったのにつれないなぁ、と呟く臨也の声に、びしりと青筋が浮かんだ。

「寝言は寝て言え」
「残念。俺は一時間前からここにいるけど寝てはいないよ」

よって寝ぼけていない、と断言されて。
頭が痛いなと静雄はぼやく。
本当にこのストーカーを自分の手を汚さずにどうにかできないものだろうか。そんな臨也の腹黒さが移ったような台詞を呟くのも致し方ない。

「とりあえず、その手を放せ変質者」
「変質者って…俺はシズちゃんが好きで好きでたまんなくて寝顔が見たいなーって思っただけだよ?」
「それで勝手に作った合鍵で部屋に侵入してりゃ正真正銘の変質者なんだよ!」
「えー…別に体中触り倒したとかそういうわけじゃないんだしさぁ。そりゃ、キスくらいしたけど」
「し・ね!」

手を振り払って、ついでに枕を投げつける。
クリーンヒット。
ぱたりと倒れ込んだ臨也が、酷いなぁと抗議するが静雄にしてみれば殴らなかっただけマシだろう言ったところだ。

「と・に・か・く、出て行け!」
「嫌だ」

声と同時に伸びてきた手にぐっと掴まれ、そのまま勢いで倒れ込む。
なんだ?なにが起こった?
寝起きから続く混乱でいい加減処理が滞り始めた脳みそを、それでも事態の把握のために必死で稼動させようとする、が。
その前に、臨也が静雄の上に乗り上げてきて、思考がストップした。

「さてと、シズちゃん」
「…な、んだ」
「いや、あんまりシズちゃんが変質者変質者って言うもんだから期待に応えようかなと思うんだけど?」
「ッ」

つ、と下着越しに下肢を辿られて、ぞくりと怖気が走る。

「じゃ、いただきます」
「や、めッ」

抵抗の言葉は口内に閉じ込められて、最後まで発することも許されず。
静雄はまるっきり悪役そのものの笑みを浮かべた臨也に朝から貪られることになった。












※冗談で食べちゃうぞなんて言わないストーカーさん。彼はいつでも本気です。


[title:確かに恋だった]