1.スキンシップじゃなくてセクハラです
※付き合ってる設定。基本イザ→→→←シズ。「しーずちゃん!」
ぎゅうっと後ろから抱きつくと、細身の身体がびしりと硬直した。
そのことに気を良くして――性格が悪いので――臨也はにんまりと笑う。
「シズちゃん、俺すっごくシズちゃんに会いたかったんだよ?」
なのに会いに来てくれないし。
そう寂しそうに言ってみれば、僅かなタイムラグの後、強張ったままではあったが静雄はぎこちなく振り向き臨也に視線を向けてきた。
その顔は今にも悪かったと言い出しそうな風情で。
――ちょろいなぁシズちゃんってば。
臨也は内心大笑いする。
「ねぇシズちゃん。俺ね、シズちゃんが好きだよ」
そう言ってやれば、静雄は前に向き直りもごもごと口の中で何か呟いている。
照れているのか真っ赤になった耳朶が見える。
馬鹿でかわいいなぁシズちゃんって。そう思いつつ、「ねえ、こっち向いてよ」と声をかけるが、静雄は抱きついたままの臨也を振り払うでもなく、真っ赤な顔を見せまいと頑なに前を向き続けていた。
何度も呼びかけるが無視され続けて、臨也はふむ、と考える。
そして。
さわさわ。
ぞわりと背筋を走る悪寒に顔色を赤から青へと変えて、静雄は勢いよく振り返りギッと臨也を睨みつけた。
が、臨也はそんなことは気にせず手を動かし続けている。
「手前、なにしてやがるッ」
「え?なにって、スキンシップ?」
「どこがだ!手つきが気色悪い!!放せッ!!」
「えー、やだ」
「ッッッ!」
怒りのあまり言葉が出ない。
その間も臨也の手は止まる様子もなく静雄の身体を弄っている。
「シズちゃん俺さ、思うんだ」
「…………なんだ」
馬鹿なこと言い出したら速攻殴ろうと決めて返事をした静雄に気づくこともなく。
臨也は予想を違わず馬鹿なことを口にした。
「こうやってしょちゅう触ってたら、シズちゃんの身体が俺のこと覚えてくれるんじゃないかなーって」
「…一回死ね!!」
ブンと勢いよく振り下ろした拳は間一髪相手が離れたことで空振りに終わる。
「避けんじゃねぇ!」
「いや、無理だって。今の避けなかったら俺の頭大変なことになってたよ?」
「そのつもりだったんだがなあ!」
「ッ!?」
一気に間合いに踏み込まれて、臨也は慌てて距離をとる。
やるなあシズちゃん。
くつくつと愉しげに笑って、臨也は退路を確認した。
「またねシズちゃん!」
「待ちやがれ臨也あぁぁ!!」
咆哮し、静雄は素早くくるりと向きを変えて走り去る黒いコートを追って駆け出した。
そのことに臨也が満足そうに笑っているなど静雄が知る由もなく。
そうして、彼らの追いかけっこはまだまだ続く。
※からかうのも求愛するのも命がけです。
[title:確かに恋だった]