※イザシズ。5月23日はキスの日と小耳に挟んだので二人にキスしてもらっただけ。でもキスの日関係ないです。











「っ」
予想外の行動だった。
静雄が手にした凶器の存在を考えれば、無謀ともいえる臨也の行動。
懐に飛び込まれて反射で後退しようとした静雄は、後方が壁であることにようやく気付く。
「ちっ」
なら殴る、と握った拳。
だが、それを繰り出す前に相手は次の行動に移っていた。
拳を握った方の手を掴まれ、足払い。
転ぶことこそなかったが一瞬よろけて後ろに傾ぐ静雄に、臨也はそのまま体重をかけてきて――。

「くっ、手前!」

体勢を崩したせいでビルの壁にそのまま押し付けられて、静雄は苛立ちに唸った。
が、臨也は気にした様子はない。
それがさらに苛立ちを煽り、反撃すべくぐっと腕に力を込めようとしたが、
「っ、ん!」
それより早く何故か臨也の顔が迫り、口を塞がれた。
ぬるりとした感触が唇を割って侵入する。
「ふ…ぅ……っん」
歯列をなぞり、舌を絡められて静雄はぎゅうっと目を閉じた。
くすぐるように舌先で舐めて、絡めて、引き出して軽く歯を立てる。
そのすべてが静雄の感覚を酷く刺激して、ぞくりと背筋が粟立った。
「ん、ァ…、……ふ、ぅ…っ」
がらんと手にしたままだった標識が地面に転がる。
力が入らなくて震える身体を、臨也の片手が撫でていく。
「う…ん、んっ」
ずりぃ…と、静雄は与えられる緩い快感にぼやけ始めた頭で思った。
ここのところ、臨也は静雄の前に顔を出さなかった。
メールも、電話も。うざいほどにあったそれらが急に途絶えて、静雄が寂しいと思っていたことなどこの男は知りもしないのだろう。
なのに、唐突に現れて、これだ。
ずるい、と音にせずに呟く静雄に気付いたのか否か。
臨也はその舌の動きに一瞬だけすべての行動を止め。そして、それからまた静雄の舌に自分のそれを絡めて吸い上げて、ぴちゃと濡れた音を立てて唇を離した。
伝う唾液を舐めとるように口の端にも舌が這わされて。
最後に首筋に触れるだけのキスを落として、臨也の顔が離れる。
「は…」
ずるずると崩れ落ちそうになった身体を辛うじて壁で支えて、静雄は臨也を睨みつけた。
「な、に…しやがん…だよ」
「あれ?嫌だった?」
静雄の言葉に意外そうに眉を跳ね上げ、首を傾げて覗き込んでくるその特徴的な色の瞳は面白そうに歪められていて。
それが酷く不愉快だった。

「…嫌に、決まってんだろうが」
「へぇ?」
「……手前」

見透かすようなその目が気に入らない。
静雄の気持ちなどお見通しだと笑う、その嫌な笑みが気に入らない。
所詮ここまで想っているのは自分だけなのだと、思い知らされるようで――。

「しーずちゃん」
「…んだよ」
思考を中断させる声は、朗らかで忌々しい。
「あのさ、君勘違いしてるでしょ」
「ああ゛?なにが勘違いだってんだ?」
「俺が、君にこうやって触れられなくて、寂しくないと思うの?」

意外な言葉だった。
きょとんとした静雄に、臨也が苦笑する。

「思ってたんだ。ひっどいなぁシズちゃんは。俺は、いつだってシズちゃんのこと考えてるのに」
「っ…信じられるかよ」
「ははっ、まあ、シズちゃん以外のことも考えてるけどね」
「………」

そうだろうよ。っていうか、俺のことなんかより別の事考えてる時間のが長いだろうが。と、恨みを込めて睨むと。
臨也は苦笑を深くして、静雄の髪に指をくぐらせた。
そして、髪をゆっくり梳きながら呟くように言う。

「でも、俺がシズちゃんの事いっぱい考えてるのは事実だよ」

ちゅっと額にキスをひとつ。
押さえ込まれる形の静雄は、ただされるまま相手の顔を見上げていた。

「シズちゃん、君は俺の事考えてた?」

その言葉も表情も。何一つ信用に足らない男だと理解しているのに。
切なさを滲ませた瞳に、胸が詰まる。
「俺は……、…」
言葉は音にならなかった。
何を言えばいいのか分からなくて、もどかしさに苦しげに眉を寄せて。
しばしの逡巡のあと、静雄は臨也の唇に自分のそれを押し付けることで、答えの代わりとした。












※関係を手探り中な二人のはなし。
そして、このパターンが好きなようだと再認識しました。