可愛いヒト











「…女はいいよな」
「───は?」

ぽつりとそう言ったシズちゃんの手元には、芸能誌。
思わず俺が眉をしかめるのも仕方ないというものだろう。
そんな俺に気づかないのか、シズちゃんはもう一度小さく、「いいな」と呟いた。

「…………」

そんなに女がいいのかよ。
まあ、俺は男だし、しかもシズちゃんは抱かれる側なわけだけど。不満なら不満って言ってくれれば……10回に1回くらいは、替わってやってもいいし(ホントはすごく嫌だけど)。
そこで、顔を上げたシズちゃんがようやく俺の表情に気づいたらしい。

「あ、悪ぃそうじゃねぇ!」
「………」

じゃあ何だと言うんだ。
そう思ったのも顔に出ていたんだろう。シズちゃんは手どころか頭まで横に振って違う違う!と否定する。

「そういう意味じゃねぇからっ」
「じゃあ、どういう意味さ」
「………」

じっとりとした眼差しを注ぐと、視線がうろうろ泳ぎ出す。

「………」
「シズちゃん?」

名前を呼べば、かあっと赤くなった。
なに、その反応?

「あ、のな…」
「うん」
「俺が、もし女だったら」
「………」

シズちゃんはそこで覚悟を決めたのか、泳いでいた視線を俺に固定した。
薄い茶色の瞳は真剣だった。

「手前のガキが産めるだろうが」

───は?

「そうすりゃ、無理矢理にでも責任とらせて、手前を俺だけのもんにできるだろ」
「…………」
「籍入れて公に俺のもんだって宣言できる」
「…………」

シズちゃんの目はあくまで真剣だ。冗談なんか言っていない。
まあ、シズちゃんはそんな冗談を言うタイプじゃないけど。
それってようは、俺とずっと一緒にいたいってことだよねぇ?不安だからしっかりした理由で縛り付けておきたいってことだよねぇ?

「………ばっかじゃないの」

そう言った途端、シズちゃんがビクリと大きく身体を震わせて、悪い、と呟いた。視線を逸らして俯いて。今の言葉を誤解しているのは明白だった。
あーあ、何勝手に誤解してるのさ。バカだなぁ。

「シズちゃん」

呼べばますます固くなる身体。
いかにも緊張してます!って感じの固まり具合に声を出して笑いたくなったけど、口の端をつり上げるだけにしておく。
シズちゃんを追いつめるなんてベッド以外じゃそうないし、ぷるぷるしてる姿は面白いけど、下手に追いつめて逆上されても困るしね。
手を伸ばして白い手首を捕まえる。
おとなしくされるがままのその手を自分の口元に寄せて、手の甲に口づけを一つ。
一瞬ビクっとしたくせにまだ顔を上げられない彼に苦笑して。

「シズちゃん、こっち見て」

もう一度呼びかけて、腕を引く。
窺うようにそろそろと上げられた顔は不安でいっぱいで。
実にシズちゃんらしくないなぁと思ったけど、まあ悪くはないので指摘するのはやめておいた。
代わりにそっと顔を寄せて薄い唇にもキス。
ちゅっとリップ音を響かせて離したら、唖然とした顔が見る見る真っ赤になる。面白いなぁ。

「好きだよシズちゃん」

あ、耳まで真っ赤。
そう思いながら、くくっと喉の奥で笑った。
今度は違う理由で泳ぎ始めるシズちゃんの視線を名前を呼ぶことで無理矢理引き戻して。

「子供ができなくたって、責任なら喜んでとってあげるから」

そう言って、俺はもう一度シズちゃんの唇に自分のそれを重ね合わせた。












※独占欲はどっちも強いのです。

台詞が頭に浮かんだのでとりあえず打ち出してて、お付き合いについて真剣に考えるのはシズちゃんの方だろうなぁと思ったのでイザシズに。
臨也は悩むには悩むだろうけど口に出すかどうか微妙な気がします。