チートコード:エンカウント0
※イザシズ。臨也を探すシズちゃん。を観察する臨也。








某有名ファーストフード店の二階席の窓際の一角を陣取って携帯に逐一入ってくる報告を見ながら、臨也は楽しげに笑った。
もうすぐ店の前を通過するだろう人物を想い鼻歌さえ歌いだすその姿にまわりにいた人間がさりげなく席を移動するが、そんな有象無象ははなから臨也の眼中にない。
彼の視線は今日はまだ会っていないたった一人にだけ向けられている。
しばらくすると予定通り店の前に金髪の男が走ってきた。トレードマークと化しているバーテン服に身を包んだ男はキョロキョロと辺りを見回し、意図せず周りの人間を威嚇している。

―しかし昨日は結構無理させちゃったのに、シズちゃんはやっぱり化け物だなぁ。

ガラス越しに相手を観察しながら昨夜の媚態を思い出し、臨也はニヤニヤと笑った。非常に気味の悪い光景に、耐え切れなかった数人が席を立つがやはり気にしない。
暴力の化身のような普段の彼からは想像もできない姿を、臨也だけが知っている。その優越感がたまらなく心地良かった。
でも足りないと臨也は胸中で呟く。散々喘がせて貪って、それでもまだ全然足りない。思い出すだけでも疼いて今すぐにでも静雄をホテルに連れ込みたい衝動を覚える…実際に今そんなことをしようとしたら怒り狂った彼に殴られるのがオチだろうが。

「やっぱりかわいいなぁ…」

聞こえないと分かっていて、でも相手に囁くように言った声は本当に甘い響きを宿していて。
臨也はくすくすと笑いながら相手の輪郭をなぞるように指を動かす。
どこを触ればどんな声を出すかはよく知っている。最初は嫌がっても最後には蕩けた声で啼いて強請る様が臨也の歪んだ独占欲と征服欲を満たしてくれる。
どす黒く染まった感情はとうの昔に愛などという生易しい言葉だけでは言い尽くせなくなっていた。
逃げて追いかけられて。捕まった振りで捕まえて。
高校時代からずっと繰り返す鬼ごっこは、いまだ決着が見えないでいる。
あ、標識折った。と臨也が小さく呟く。どうやら目標物…もちろん臨也だ…を見つけられない苛立ちが公共物へ向けられたらしい。
本当に非常識だと思うが、見慣れた光景なのでそれ以上の感想はない。
いまだキョロキョロと臨也の姿を探す彼は、それでも上から見下ろされていることには気付かなかった。

「残念」

どうやら臨也の姿を捉えることはできなかった静雄は次の場所へと移動する気らしい。
標識を手にしたまま静雄が走り去っていくのを見送ってから、臨也は携帯に視線を戻した。
また次々と入ってくる報告に、自身の次の行動を決定し、

「さて、そろそろ移動しようかな。今日は絶対会わないようにするからせいぜい頑張って地べたを駆けずり回ってよ、シズちゃん?」

実に楽しそうに笑う臨也は、シェイクの容器を片手にのんびりと席を立った。





自称素敵で無敵な情報屋だけが楽しい鬼ごっこはまだ続く。












※たちの悪い男にひっかかりましたね。というはなし…ではない…ハズ。