みみとしっぽ
※携帯版memoログ。通常シズイザ。












朝起きて、鏡を見て。
一番に思ったのは、なにこれ?というそれだけだった。
いや、本当にそれ以上何の感想も抱けないぐらい、頭の中は混乱しきっていた。

「…ねこ?」

そう口に出して、情けなくへたりと横を向いたそれに、ようやく認識が追いついてくる。
「いやいやいや、ありえないでしょいくらなんでも」
頬を抓ってみても痛いだけで、これが現実だという事実だけを教えられて。
俺――折原臨也は、大きく溜息をついてその場にへたり込んだ。

「あー…くそ、昨日のあれか」

思い出すのは昨日、新羅の家で飲んだコーヒーだ。
あれ以外、昨日は他人の手が触れたものは食べたり飲んだりしていない。
必然、犯人はあの首なし妖精一筋の闇医者ということになる。

「…とりあえず、波江さんに今日は休みって伝えないと…」

それから、あのクソふざけた男を殴りにいこう。
そう何処かの単細胞な化け物みたいなことを考えて、その思考にぞっとしながら首を振った。
いや違う。これはあの馬鹿の理不尽な暴力とは違う正当な理由のあるものだ。
その自身に言い聞かせてうんうんと頷いて、俺はとりあえず携帯を取りにリビングに戻ることにした。


※そういえば原作設定では猫耳やってなかったなーと思ったので即席小ネタでやってみたもの。














「新羅、これは一体どういうことかな?」

開口一番そう言った臨也に。
新羅は目を輝かせて、止める間もなくフードを引っぺがした。
当然のように隠されていた三角の耳が現れる。
「あ、良かった。成功したんだね」
弾んだ声でそう言われて、臨也は眉根を寄せて睨んだ。

「新羅?」
「あはは、そんなに睨まないでよ。ところで、」
「ちょっ、何してんだこの変態!」

いきなり手を臨也のズボン――端的に言えば尻だ…に伸ばしてごそごそと探る新羅に、臨也は焦って身を引こうとする。
が、背後は玄関のドアであったため逃げ場はなかった。

「誤解を招くようなこと言わないでよ」
「ちょっ、ホント止めろ!」
「まあまあ」
「〜〜〜〜っ!」

ベルトを外す手は躊躇なく、研究者の好奇心丸出しな新羅に臨也は涙目になって「セクハラで訴えるぞこのアホ医者!」と喚く。

「ああ、やっぱり生えてたね」
「こ、のド変態…。言えば見せたし、いきなり断りもなく脱がすなッ」
「ははは、大丈夫だよ。僕はセルティ以外には欲情しな――」
「死ね!」

ズボンを下に少しずらされて引きずり出されたそれ。
新羅の手からそれを奪い返して、臨也は低く猫のような唸り声を上げる。

「…ちゃんと毛も逆立つんだ。興味深いなぁ」

ぶわりと毛を逆立てたそれ――しっぽに。
新羅は感心したようにそう呟いて、臨也の機嫌をさらに降下させた。


※※セクハラされる臨也さん(違)















ぎろりと新羅を睨んで。
臨也はとりあえずしっぽをズボンの中に戻す。

「あれ?しまうの?」
「うるさい」
「穴あければ?」
「…だれがあけるか。大体こんなもの堂々と晒して街中歩けるわけないだろ」

冗談じゃないと憤慨すると新羅は結構似合ってるのにと呟く。
似合ってたまるかと思ったが口には出さず、臨也はさっさと目的を果たそうと再度問いかけた。

「それで、どういうことか説明して欲しいんだけど?」
「ああ、うん。そうだね」

じゃあとりあえず上がってよ、と促されて。
臨也は渋々といった体でそれに従う。
勧められるままソファに座り視線で促すと、新羅は悪びれた様子もなく頷いて話し始めた。

「それ、ネブラ製薬の開発の副産物でね。貰ったのはいいんだけど、セルティは口がないから飲めないだろ?それでちょうど偶然やってきた君たちに飲ませてみようかなーと思ったんだ」
「ちょっと待て…君たちって言ったか?」
「うん。だから、君と――」

新羅の言葉は、がしゃん、と金属がひしゃげたような派手な音で途中で中断された。
よく知った――知りたくもなかった――破壊音に臨也は顔をしかめ、新羅は「ああ来たみたいだね」と呟く。
どかどかと大きな足音がして、

「新羅!手前何しやがった!?」

蝶番を捻じ切られた憐れなドアを持ったまま、予想を違えることなく静雄が青筋を浮かべて部屋に入ってきた。
「やあ、静雄くん。いらっしゃい」
ところでドアの修理代請求してもいいかな?と訊く新羅。
だが、静雄はその言葉には一切反応しなかった。
彼の見詰める先は、ひとつだ。

「「………」」

臨也と静雄。
二人は唖然とした表情で、お互いの姿を見詰めて固まってしまっていた。















「手前、それ本物か?」
「君、まさかそのまんまの格好で歩いてきたわけ?」

ほぼ同時にそう言葉を発した二人。
彼らは僅かな間を空けて、それから不愉快そうに動物のそれに変化してしまった耳を伏せる。

「それをいうなら君のそれこそ本物かい?まさかコスプレの趣味があるとか言ったらかなりドン引きなんですけど」
「ああ゛?本物に決まってんだろうが。っていうか、なっちまったもんはしかたねぇだろうが。隠す意味がわかんねぇよ」
「恥ずかしいだろ!一応二十歳を越えた人間がそんな格好で街中を歩くなよ!」
「はっ、フード被ってこそこそ不審者みたいに歩いてきた手前には言われたくねぇな!」
「っ!何で知ってんだよ!」
「偶然それを見かけたってやつがいて話を聞いたんだよ!」
「誰だ…くそっ」
「手前にゃ教えねぇ」
「シズちゃんの癖にッ」

ぎゃんぎゃん騒ぐ犬耳と猫耳の成人男性二人に、蚊帳の外に置かれた新羅が溜息をつく。が、二人は気にしなかったし、新羅も今は口を出す気はなかった。

「大体手前何でここにいやがる!?」
「非常に不本意だけどたぶん君と同じ理由だよっ。このふざけた耳としっぽを」
「あ?しっぽ?」

臨也の言葉を遮って、静雄は首を傾げる。
その静雄の背後からはふさふさの毛に覆われた犬のものと思しき尻尾が見えている。だが、臨也には一見それが見えない。

「手前、まさかしっぽズボンの中に入れっぱなしかよ」
「悪い?耳と違って隠しようがないし服に穴を開けるのも嫌だったんでね」
「あー…思い出したぜ。このしっぽのせいで幽のくれた服に穴開ける羽目になったんだった」
「いや、開けるなよ。っていうか堂々と出して歩くなってば。大の男が犬耳としっぽ付けてるとか笑えないから」
「うるせぇ。しかたねぇだろうが。なんかこうごわごわするし窮屈なんだよ」
「…まあそれは分かるけどさぁ」

うんと頷いた臨也に、静雄はやっぱり手前も窮屈なんじゃねぇかと思う。と同時に、臨也に生えているというしっぽがどんなものか気になりだした。
そもそも自分だけしっぽを見せているのは割に合わないような気がした――理に叶っていなかろうが彼はそんなことは気にしない性格だった――ので、静雄は眉間に皺を寄せたまま臨也に向かって手を伸ばした。
そのまま、先程の新羅の再現であるかのように、ズボンを下ろそうとするのを臨也はとっさにナイフで刺して止める。

「おいノミ蟲、何しやがる…」
「いやそれ俺の科白だからね?何断りもなく人のこと脱がそうとしてんのさ。新羅といい君といいセクハラで訴えるよ?」

フーッと猫の威嚇の声まで出してそう言われて。
静雄はぱちりと瞬いた。
それから、ようやくその存在を思い出した新羅の方を向き、一言。

「手前人のもんに何やってんだ、ああ゛?」


またしても(今回はギリギリ未遂だけど)セクハラされる臨也さん。
そして自分のもん宣言を勝手にする静雄さん。















「いや単純な好奇心ってやつだよ!セクハラじゃないからね!?」

矛先を自分に向けられて新羅が焦る。
が、臨也はふんと鼻を鳴らしただけで、静雄は青筋を浮かべて睨みつけてくる。

「新羅、手前がどういう意図でそういうことをしたのかってのは重要じゃねぇよ。ああ、重要じゃねぇんだ」
「…し、静雄くん?」
「人のもん勝手に脱がそうとしたってその行動が問題なんだよ。ああ?分かってんのか?」

ずいっと一歩近づかれて、そのぶん後ずさって。
新羅はこくこくと必死に頷いた。

「ごめんなさい!もうしません!だから許して!!」
「………二度目はねぇ。覚えとけよ?」

もうこくこどころかガクガクといっていいほどの勢いで頭を振る新羅に、静雄は一応怒りを静めてくれたらしい。
否、別にもっと気になることがあったというのがおそらく正解だろう。
くるりと顔の向きを変えた彼は、他人事のような表情で二人のやり取りを見守って(?)いた臨也を見て、それから言った。

「で?手前のしっぽとやらを見せてもらおうか?」
「…なんなのそれ。まさか俺に今ここでストリップでもしろっていうのかい?何か捉えようによってはすっごく変態発言っぽいんですけど?」
「うるせぇ。減るもんじゃねぇだろうが」
「減る。なんかシズちゃんに見られたら減る気がする」

減る…というかなくなるのは構わないが、静雄の目が妙な色を帯びている気がして、臨也は断固拒否の姿勢で数歩後ずさる。
それに、静雄はにやりと笑った。

「…はっ、そこまで嫌がられたら、是が非でも見たくなるよなぁ?」
「ちょっ、何すんのさ!?あああもう!新羅といい君といい、どうしてこう君らは俺の意見を聞こうとしないのかな!?」
「うるせぇっ、大人しくしろっ」

逃げようとした臨也をがしりと捕まえる静雄は、傍から見るとただのいじめっ子のようだった――子という年齢ではないが。
最初は、たぶん好奇心。
だが、今の静雄は普段簡単に追い詰めることが出来ない相手をこうも容易く追い詰められていることに気分を良くして、当初の目的はすっかり忘れているらしい。
臨也の反応のせいで静雄の目的がすでにシフトしているのを明確に感じて。
新羅はやれやれと呟いて、またしばし傍観者に戻ることにしたのだった。


※静雄さんに変態疑惑が浮上…。いえ、別に変態じゃないですよ?単なるいじめっこ心理です(本当か?)















で、結局。
静雄に力で叶うはずもない臨也は無駄な抵抗をしてズボンを破かれてしまったわけで。
「後で買って返すよ」
そう言いながら、心底不本意そうに新羅のズボンを借りることになった。
(しかもこれまた大変不本意だが、ご丁寧に尻尾用に穴まで開けられてしまった。)

「…ちょっとシズちゃん。いい加減離してくれないかなぁ」
「あ?いいだろ別に」
「よくない。それは君のじゃなくて認めたくないけど俺のなの」

唸って静雄の手からしっぽを逃がす。

「…手前」
「何かな」
「別にしっぽくらいいいじゃねぇか。なんなら俺のやつも触らせてやるから」
「いらない。別に触りたいなんていってないし」

また伸ばされた手から尻尾を遠ざけて、それから臨也は改めて新羅の方を見た。

「で?これいつ治るの?」
「…う〜ん…実はよく分からないんだよね。さすがに治らないってことはないと思うんだけど…たぶん」
「…おい」

何そんなもの断りもなく使ってんだと目を吊り上げる臨也。
それに対して、新羅は少しだけ身を引いて、
「たぶん一週間以内には消えると思うよ」
「根拠は?」
「動物実験ではそうだったらしい」
「ふうん…」
一体何の動物に飲ませてどんな耳と尻尾になったのか。そう思ったものの聞いてみるほどの興味はわかなかったので問わずに、臨也はただ相槌を打って、なら一週間は休みだなと呟いた。
幸い急ぐ仕事は入っていない。

「って、シズちゃん!君いい加減にしろよ!!」
「ちっ、いいじゃねぇか」
「よくない!」

臨也は叫びながら、掴まれそうになったしっぽで静雄の手をびしりと叩いた。
…耳としっぽは臨也だけでなく静雄にとっての問題でもあるはずなのに、当人はもうそんなことは気にしていないらしい。
そのことを指摘すると、「別に一生消えないわけじゃないんなら問題ないだろ。手前も一週間ぐらい我慢しやがれ」と言い出す始末だ。

「俺は君みたいに開き直れないんだよ…っていうか、開き直りたくない」
「あ?似合ってるからいいじゃねぇか」
「いや、似合うとか言われても嬉しくないからね?」

迷惑そうに首を振って溜息をついてみせる臨也に、静雄はそうか?と首を傾げ。
それから、唐突に何かに気付いたように鼻をヒクつかせる。

「…手前、何かいつもより良い匂いするな」
「は?」
「何かつけてんのか?…いや、それにしちゃノミ蟲くせぇし」
「…失礼なこと言わないでくれるかい」

ふんふんと鼻を鳴らす静雄がさりげなく側に寄るのを牽制しつつ、臨也は上目遣いに睨みつけて問う。

「いっつも臭い臭いっていうけど、俺ってシズちゃんにとってそんなに臭いわけ?」
「実際くせぇんだよ」
「………」
「んー…まあ今の手前のは、嫌いな匂いじゃねぇな。しっぽも手触りいいし」
「ちょっと、触らないでってば!」
「……なんでそんなに嫌がるんだよ?」
「気持ち悪いの。触られると背中がざわざわする感じで」

だからやだと耳を伏せて眉間に皺を寄せていう臨也に、静雄と新羅は目を瞬かせた。
「「………」」
ええと、それってつまり、お約束のアレ?と新羅が声に出すより早く。
静雄は臨也のコートのフード部分をがしっと掴んで、言った。

「新羅、もうこいつ連れてっていいよな?」

それは問いかけの形をとっているが紛れもなく宣言だ。
まあ、匂い云々言っていた時点で何となく先の展開を察していた新羅はやれやれと首を振ってから頷いた。

「はいはい。まぁ治るまではそのまま監禁でも何でもお好きにどうぞ。僕は止めないよ」
「ちょっ、新羅!?」
「頑張れ臨也」
「っ」

ひらひらと手を振る闇医者に反論する暇さえ与えられず、臨也は静雄の方に担がれてしまう。

「下ろせこの馬鹿!」
「ああ?あいにくノミ蟲語は分かんねぇなあ?」
「ノミ蟲語って何!?俺だってそんな言葉分からないし!」

臨也の叫び声など気にした様子もなく、にやりと笑った静雄は軽い足取りで玄関へと向かい。
新羅はとりあえず臨也の無事を(適当に)祈る素振りをして見せただけだった。




その後、臨也がどうなったのかは…それぞれの想像にお任せしたいと思う。


※臨也さんだけ災難な話。
特に意味もオチもなくここで強制終了です。