恋する怪物 11
※シズ→イザ。2010年ハロウィンネタの続編。本編完結。









「新羅、もう一杯おかわりー」
「…自分で入れてよ」

そう言いながらもカップを持ってキッチンへ向かう新羅に。
臨也は満足げな表情でソファに背を預けた。
新羅のマンション。
仕事の帰りに立ち寄っただけにも関わらずまるでここの主であるかのように振舞う人狼に、新羅は苦い表情で溜息をつく。
これがほんの数日前には自分から死のうとしたという男の態度だろうか。
そう思わずにはいられないが、そもそも新羅は静雄から話を聞いただけなのでどこまでが真実かは分からないというのが本音だ。

「でもここに来てていいのかい?君、静雄にしばらく大人しくしてろって言われてるんだろ?」
「いいの。別にシズちゃんの言うこと全部聞く必要なんてないから」
「でもさ」
「うるさい」

ぷいっと顔を逸らす臨也に、さらに溜息をついて。
新羅は紅茶を注いだカップを渡す。

「…しかし、君が静雄と付き合うことになるとはね」
「まったくだよ。我ながらなんであんな乱暴者のしかも吸血鬼なんかがいいんだか…。あーあ…俺人間が好きなはずなのになぁ」

そこで一回言葉を切って。
すっと目を眇めて、声を低くして。
静かな、冗談の色のない声で、臨也は溜息とともに言葉を吐き出した。

「…まったくもって恋とは御しがたいものだ」

実感のこもった声に新羅が思わず笑ってしまうと、じろりと睨まれる。
どうやら恋に翻弄されるこの狼は、実は酷く参っているらしい。
「君の口からそんな言葉が聞けるとは思わなかったよ」
と、新羅が感想だけ述べておくと、ちっと舌打ちして視線が逸らされた。
それから、そうかいと苦い顔で言って、臨也はカチャリと音を立ててカップを置く。
と、同時に。

「いぃざぁやぁあああ!何で手前ここにいやがる!?」

そんな声とともに派手な破壊音。
うわ…と思わず顔をしかめた新羅を尻目に、臨也は先ほどまでの表情はどこへやら、くつくつと喉を鳴らしてそちらを見る。
大きな足音とともに入ってきた静雄に手を振って見せて「やあシズちゃん」と挨拶して見せるあたり、静雄の前では今まで通り振舞いたいらしい。

「おいノミ蟲…俺は手前になんて言った?」
「さあ、何だったかな?」
「…いい度胸じゃねぇか手前」

座っていた臨也の胸倉を掴んで無理やり立たせる静雄。
その行動に逃げるでもなく素直に立った臨也はにんまりと笑ってみせた。

「シズちゃん」
「何だ」

眉間に皺を寄せて唸る相手に、臨也が取った行動は。

「ッ!!!!!」

顔を真っ赤にして静雄が手を離す。それと同時にするりと抜け出した臨也は、じゃあねと新羅に手を振って悠々と歩き出した。
静雄の方はと言えば…まだ復活していない。

「静雄、君って…」

そこまで言ったが、続ける気にならず。
新羅は額に手を当てて溜息をついた。
頬にキスされたくらいでその反応はないだろうというのが正直な感想だ。
すっかり硬直した池袋最強から視線を外して、新羅は壊されたドアの修理代の請求先は臨也でいいよねなどと考える。

「ま、とりあえずこれで一安心かな」

池袋に騒ぎを起こす元凶の人狼も、当分は恋人であり眷属である吸血鬼に振り回される日々を送ることになるだろう。
だから、新羅はしばらくは続くだろう平和を愛する妖精と存分に楽しもうと決めて。
まずは計画を練らなきゃねと浮かれた声で呟いたのだった。



※ここで本編は完結となります。