猛獣設定で修学旅行
※携帯版memoログ。旅行中にリアルタイムで書いてたもの。

















※飛行機に乗ってすぐ。


「…シズちゃん君窓側行っていいよ」
「?…いや、俺は寝るからどっちでもいいぞ」
「いや寝るならなおのこと窓際に行くべきだよ。お手洗い行きたくなったときに邪魔だし」

さあ行けと窓側の席を指す臨也に、静雄もその後ろにいた新羅や門田も首を傾げる。

「なんだか尤もらしいこと言ってるけど、なんか変だよね?」
「そうだな」

そんな二人の言葉を聞きながら、静雄は漠然と思ったことを口にした。

「……なあ臨也」
「…なにかなシズちゃん」
「お前まさか飛行機が怖いのか?」
「!!」

びしりと固まる臨也。
どうやら図星らしい。

「え、嘘。臨也まさか飛行機が怖いの?」
「…高所…は好きだよな?」
「だよねぇ」

うんうんと頷く新羅を見るとはなしに見て。
静雄は再び臨也に目をやった。
固まったと思っていた臨也は俯いていて――

「…ふ、ふふふふふ…」

何故か低く笑いだした。

「おい?」
「……ねぇシズちゃん」
「…なんだ?」
「人間ってさ、飛べないんだよ」
「いや当たり前だろうが」
「ああそうだよ。当たり前なんだよ!なのになのにっ」
「落ち着け臨也。キャラが崩壊しかけてるぞっ」

お前はそんなすぐ泣くキャラじゃないだろうが!
涙目になって何事か訴えようとしている臨也に、静雄は思わず後ずさる。

「だって、だってさ…」
「ちょっと待てわかった話は聞いてやるから――」
「…なにかトラウマがあるみたいだね。しかし臨也にも意外な弱点があったんだ…。いや驚天動地だね。でさ、そろそろ座ってくれないかな?」
「静雄、とにかくいい加減邪魔だからさっさと窓側に座ってやれ」
「………」

外野にせっつかれ、静雄はわかったよと溜息をついて、自分は窓際へ座り臨也をその隣に座らせることにした。


※猛獣臨也さんの苦手なもの1:飛行機















※飛行機の中で。


「臨也、手前少し落ち着け」
「いや無理。絶対無理。無理ったら無理」

ぎゅうぎゅうと腕にしがみつく臨也に、静雄は呆れを含んだ視線を送る。
臨也は結局静雄に飛行機が怖い理由を語ったりはしなかったが、始終落ち着きなく窓の方を気にしてる。いったい何があったのかしらないが、その出来事が相当トラウマになっているのは間違いないだろう。

「ああもう最悪。なんで真ん中の席じゃないのさ。それだったらまだマシなのに」
「…マシになるのかよ」
「なるよ一応。真ん中なら何とか普通に乗ってられるし…あ、そうか。誰かと替わってもらおう…ってシズちゃん、離してよ」
「ここにいろ」
「やだ。無理。これ以上窓の側にいたら気が狂いそう」
「…手前な」

やれやれと呟いて哀れな犠牲者を出さないためにも静雄は臨也の腕を引っ張った。
予想していなかったのか、うわっと声を出して臨也が倒れ込んでくる。その時に窓の外を見てしまったらしく、ビクリと硬直した身体。それを抱き込んで背をあやすように撫でて。

「ここにいろよ、こうしててやるから」

囁くように言えば、低く不満そうな唸り声が返った。

「馬鹿じゃないの。そういう問題じゃないし、そもそもずっとこのまんまってわけにはいかないってわかってる?」
「わかってる」
「………」
「………」
「………」
「…わかったよ。でもせめて俺の席に移動して」

渋々といった様子で頷いた臨也に、静雄は本当に苦手なんだなと思いつつ臨也を抱えたままひとつ隣の席に移動した。


※あのせっまい席でこんなやりとりしてたら迷惑だけど、周りは二人については見て見ぬ振りをする方針なので誰もつっこみません。ちなみに新羅は生温い視線を向けるだけで、ドタチンはその時は寝ていたという設定。だからツッコミ不在。















※飛行場で。


飛行機から降りた臨也はもうすっかり落ち着きを取り戻し、いつもの調子を取り戻していた。

「…もう少し大人しくしていてくれた方が良かったのに」
「……というか、いっそこの旅行中ずっと大人しかったら良かったんだがな」
「まあ、臨也だしね」
「臨也だからな」

遠い目をした門田の視線の先、臨也が静雄を連れて土産物屋の前でなにか話している。

「せめて集合するときぐらいはいて欲しいよね」
「そうだな」

これからすぐ移動だというのに、引率の教師の言葉など臨也は聞いていなかった。そして、飛行機を降りてすぐ、静雄の腕を引き真っ直ぐに土産物屋に直行して現在に至る。
同じグループとして行動しなければならない新羅と門田にってはいい迷惑である。

「本当に、自由奔放というか傍若無人というか…」
「……」

はあ、と深い溜息をつき、門田が二人を呼ぶ。

「臨也!静雄!そろそろ行くぞ!」
「あ、ごめんドタチン。今行くから!」
「悪ぃ」

ぱたぱたと走って戻ってきた臨也の手にはアイスクリーム。
当然、そのあとを着いてきた静雄も同じようにアイスを持っていた。

「シークァーサー味だってさ。あ、シズちゃんのは紅芋味だよ」
「…そうか」
「あとね、塩ちんすこう味っていうのもあったけど」
「……そうか」
「…臨也、君自由すぎだよ」
「あー…悪ぃ」

すまなさそうに謝る静雄に、なんで君が謝るのかなと思った新羅だったが、とりあえず今は痺れを切らしているだろう教師たちのところへ行くのが先決だったので今は疑問は脇に避ける。

「とにかく行こうよ。置いていかれて自費で移動なんて僕はごめんだよ」
「はーい」
「おう」
「じゃあ行くか」


※前途多難です。
っていうか、塩ちんすこう味…。















※朝の一幕。


「……起きてこないな」
「起きてこないね」

夜もひと騒動起こした臨也たちをまとめて部屋に放り込んだその翌日。
起床時間を過ぎているのに起きてこない二人の様子を見にきた新羅たちだが、呼んでも反応がないので困っていた。
二人部屋なので寝床の問題はなかっただろうが、あの二人の場合はそこが問題なのではない。

「どうしようか…」
「………」

さて困った。
顔を見合わせた彼らだったが、正直に言えばこの部屋に踏み入るのは勇気がいった。
と、がちゃりとドアが開く。

「静雄」
「…悪ぃ、寝坊した」
「今起きたの?」
「あー…いや…違う」
「?…臨也は?」
「………まだ寝てる。起こしたんだが起きやしねぇ」
「悪いが起こしてくれ」
「おうわかった。悪いが先に行っててくれ」
「了解」
「早く来いよ」
「悪いな」

ぱたりと閉じたドア。
それを待って新羅と門田は複雑そうな表情で再び顔を見合わせた。
今のやりとりの間にばっちり見えてしまった床に散乱した衣服に、予想が的中したことを確信してしまったのだ。

「…さすがにこれくらいは自重して欲しかったよねぇ」
「…まったくだな」

そんな言葉が出てくるのも仕方ないというものである。


※自重しない二人。















※海にて。


寄せては返す波をぼんやりと眺め。
臨也は溜息と共に呟いた。

「海だねぇ」

修学旅行じゃないのか?と問いたくなるが、どういうわけか臨也たちは今海にいた。
こういう場合、普通は観光名所や歴史的な何かを見たりするものではないのだろうか。そう思うが、それで海にいるという事実が変わるわけでもない。

「泳がないのか?」

静雄に問われて首を振る。

「いい。日に焼けるの嫌だし、シズちゃんだけ泳いできなよ」
「…なあ」
「うん。それ以上言わなくていいよ?っていうか言うな」

どうしてそういうところは勘がいいんだと睨むが、相手はにやりと笑っただけで臨也の希望を叶えてくれる気はないらしかった。

「手前泳げないのか」

鬼の首を取ったような顔で言われてムッとするが反論する気はない。もし反論してじゃあ泳げと海に放られたら洒落にならないから仕方ない。

「うるさい。別に泳げなくたって死なないからいいの」
「…いや、死ぬだろそれ。もし川とか落ちたらどうする気だよ?」
「………」

そんなこと知るか。そう思って臨也がぷいっと顔を逸らすと、静雄は小さく溜息をついた。

「まあ俺がいればちゃんと助けてやるよ」

仕方ねぇなぁと呟かれて、何言ってるんだこいつはと眉間に皺を寄せる臨也だが。
静雄はそんなことは気にした様子もなく言葉を続ける。

「だからよ、俺がいるとこ以外で溺れるなよな」

それはつまりなにか?ずっと離れるなよとでも言うつもりなのか?
静雄の発言の意図が読めず僅かに首を傾げつつも、臨也は無意識にこくりと頷いたのだった。


※猛獣臨也さんの苦手なもの2:水泳















※みやげもの屋にて。


「うーん…なに買おうかなぁ」
「これなんかどうだ」
「…自分が買えば」
「んなもん幽にやれねぇよ」
「君はそんなものを俺に買わせようって言うわけ?」
「いいじゃねぇか」
「よくない」

なんだかよくわからない置物を片手にぎゃあぎゃあと騒ぐ臨也と静雄に。
新羅が呆れと含んだ眼差しを向ける。

「君たちってホント、どこに行っても変わらないね」
「何が言いたいのさ」
「傍観者の位置にいる分には見てて面白いからいいんだけど、そうでない時はひたすら迷惑だよって話かな?」
「……迂遠な言い方しないではっきり言えばいいじゃん」
「言ったらどうにかしてくれるのかい?」
「ううん、しない」

じゃあ無駄じゃないか、と呟いた新羅が完全に他人のふりを決め込む門田の方へ行ってしまって。
二人は顔を見合わせた。

「…少しは大人しくしろってことらしいから、真面目におみやげ探そうか?」
「…おう」
「シズちゃんはご両親と幽くんにだっけ?」
「手前は妹にだろ」
「うん。へんなもんやるとうるさいし適当でもダメだからあいつら面倒なんだよ」
「……ああ、確かに」
「困ったもんだよねぇ。あ、これなんかどうかな」
「…いや、微妙じゃねぇか?」
「んー…そうかなぁ」

何がいいかなぁとふらふら見て回る臨也を追って、静雄ものんびりと土産物屋の探索を再開することにした。
また妙なものを見つけてきた彼が臨也に声をかけ先と同じ問答を繰り返すまであと少し。


※この後結局時間切れで無難路線に落ち着いたようです。















※帰りの空港にて。


「疲れた」
「そうだな」
「僕はもうあの二人とは金輪際旅行に行きたくないよ」
「同感だ」

新羅と門田はぐったりとした様子で空港の椅子に背を預けている。
帰りもギリギリまで問題を起こしてくれた二人にもはや溜息をつく気力もない。
(いきなりケンカを始めた時は本当にどうしようかと思ったものだ。)

「…しかし、大人しいとそれはそれで気味が悪いな」
「臨也だしねぇ」
「…そこまで怖い原因を知りたい気もするな」

そう言って、静雄の服の裾を握って俯く臨也の姿に視線をやれば。

「うっさい。知らなくていいよ。っていうか、知ってほしくない」

俯いたまま答えて臨也は「飛行機なんか嫌いだ」と呟いた。鉄の塊の癖に空を飛ぶとかどういう料簡だよ、とか言っている。
手荷物検査を済ませて出発ロビーに入ってからはずっとこんな調子だ。

「往生際が悪い奴だな手前は」
「ふん。シズちゃんには分からないよ。ああもうホントなんで飛行機なんかに乗らなきゃいけないだ」
「そりゃ、行きが飛行機なんだから帰りも飛行機に決まってるだろう」
「…そういうことは言ってないよ」

もうやだ、と静雄に抱きついて。

「飛行機なんて全部壊れればいいんだ」

などど言ってくれた。

「いや、それは洒落にならないから」
「これから乗るって時に冗談でもそういうことを言うな」
「もし乗ってる時に壊れたらどうする気だよ」

3人にそう言われて呆れた顔をして、溜息一つ。
臨也は子供を諭すような口調で言った。

「言ったくらいで落ちるわけないでしょ。3人揃って馬鹿なの?それとも何?言霊信仰でもしてるわけ?」

馬鹿馬鹿しい、と眉間に皺を寄せて唸って。
それから。

「もし本当に壊れて欲しかったら、もっと確実な方法を選んでるよ」

その発言が妙に現実味を帯びていて。
3人は顔を一瞬見合わせてから、まさか何かしてないだろうなとしつこく質問することになるのだった。


※最後まで傍迷惑な臨也さんでした。