小ネタログ
※memoログ。PC版も携帯版もごっちゃになってます。









※たぶんシズ→イザ。


手のひらを目の前に広げて、眺める。
何の変哲もない自分の手だ。
他人と特に違いはないだろう手の、左の小指に絡まる、赤い糸。
幼い頃は何なのか知らなかったそれ。
だが、それが何なのか、今は知っている。

「ん?」

くんっ、と糸が引かれた。
ああまたかと溜息をついて、俺は立ち上がった。
休憩終了まではまだ時間あると確認し、そいつがいるのだろう方向を見る。
糸が何度も引っ張られて、まるで催促でもされているみたいだ。

「まあ、実際はアイツにゃ見えてねぇんだろうけどな」

自分以外には見えない赤い糸。
それを辿って、歩いていく。
すぐに黒衣の男の姿が目に映った。

「いーざーやーくーん?」
「げ、シズちゃん」

低く、威嚇するように声を出せば、振り返った顔が引き攣って。

「なあんで手前が池袋に居やがるんだ、臨也くんよお?」

糸の繋がる先。
顔を顰めて俺を睨むノミ蟲に。
俺は、気付かれぬように深呼吸した。





赤い糸の話。















※上の赤い糸の話の臨也サイド。


ちらちらと。
時々見える、赤。
しっかり見ようとする前に消えるそれが、赤い糸と呼ばれるものなのだろうと、どこかで分かっていた。

「…でもさぁ、もしそんなものがあるとして、俺のこれは誰に繋がってるんだろうねぇ?」

独り言だ。
誰に聞かせるつもりもない疑問を吐き出して、俺は小さく笑う。
一瞬脳裏に浮かんだ相手は、たぶん絶対にありえない。
でも、他の誰かと繋がっていることを想像できないし、相手のそれが他の誰かと繋がっているのも我慢できなかった。

「あーあ…我ながら、馬鹿みたいだ」

自嘲した、その時。

「いーざーやーくーん?」
「げ、シズちゃん」

声に振り返れば、天敵の姿があった。
まあ、こんな風に威嚇するみたいに俺を呼ぶ男など、こいつ以外いるはずもないのだが。

「なあんで手前が池袋に居やがるんだ、臨也くんよお?」

ちら、と一瞬揺れる、赤。
その糸の繋がる先がこの男であればいいのに、と。
馬鹿なことを思いながら、俺は天敵から逃げ切る方法を考えた。


※両片思いが大好物です。














※『クロネコ』設定。あったかもしれないし、なかったかもしれない話。


(痛い、痛い…ッ)

激痛と耐える子供の感情。
その悲痛な感情の波に、黒猫はピクリと耳を動かした。

「…?」

ゆらりと尾を揺らめかせ、先を急ぐ足を止める。
何故か酷く、その感情の波が気にかかった。
ほんの数分の寄り道だ、と黒猫はその感情の主のいる方向へと歩き出す。


いたのは、子供だった。
まだ小学生だろうその子供は、右腕を押さえて痛みに呻いていた。
骨折だろうか?そう考え、黒猫は側に寄ろうとする。
と。
猫の姿に気付いた子供が、色素の薄い目で睨みつけてくる。
にゃあ、と鳴けば、寄るなときつい声。
伝わってくる感情は、恐れだ。
誰かを傷つけることを恐れる子供。
怖いと心の中で泣く子供を何故か放っておく気になれなくて。
黒猫はそっとその子供の側に寄った。
来るなと泣きそうな声。
可哀想だと思ったわけではない。そんな同情心など持ち合わせてはいない。
ただ。

――君の声が、気にかかっただけだ。

腕を押さえる白くなった指を舐めて。
黒猫はにゃあと鳴いた。
ビクリと震える子供の指先に額を摺り寄せて、泣かないでよ、と心の中で呟く。
君の感情は、なんだか痛い。
戸惑うような顔をする子供にもう一度鳴いて。
黒猫は少しでも痛みを和らげばいいと、子供の心が落ち着くまで側に居続けた。














▼猛獣と一緒(新羅編)
※『猛獣』設定。サイト始める前に書いた発掘品。


岸谷新羅と猛獣――もとい折原臨也との出会いは、中学時代に遡る。
最初見た時は、ただのきれいな子供だと思った。
自分と同じ人間。そう、思っていたのだけど――、


「あれは反則だよねぇ」
「?何が?」

不思議そうに目を瞬かせ首を傾げる猛獣は、一見どう見てもただの無害な一般人だ。
でも、そうではないと知っているだけに、新羅としては苦笑するしかない。
この外見だから惑わされるのだ。せめて、その中身に似合う姿かたちを持っていたなら、あの時ちょっかいをかけようなんて思いもしなかったのに。

「君の容姿の話だよ。あの頃の君ってホント女の子みたいな顔しててさ、騙されてあんな目にあった身としては、ちょっとね」
「…あれは君が悪いんじゃないか。大体、俺が何かくらい知っていたんだろ?」
「情報としては知ってたよ?でも、まさか…うん…いや、何でもないよ」

独特の色彩の目にきつく睨まれて、新羅は首を振った。
今では凶暴な猛獣の扱いにもだいぶ慣れていて。
怒らせないギリギリのさじ加減も心得ているつもりである。
どうやら、思い出したくない話題だったらしいと理解して。
新羅は小さく声を立てて笑った。
どうやら、猛獣の方もあの時は多少は…たぶんやりすぎたとかその程度だろうが、反省しているらしい。
でも、あの件に関して臨也が謝ることは決してないし、謝って欲しいとも思っていない。

「あれは不用意に俺の逆鱗に触れた君が悪い」
「うん。あれは反省してる」

失敗だった。アプローチを間違うだけでこちらの命に関わる生き物だという認識が薄かった自分が悪い。
ただ――。

「うんやっぱりそれは反則だと思うな」
「?」

見上げる赤と、無駄に整った顔立ちと。
ついでに滑らかな肌の感触に、もしいるとしたら、神様は絶対えこひいきしたんだと思うなぁ…あ、でも性格で帳消しなのかな?と考え。
新羅は猛獣の白い腕に包帯を巻きながら、苦笑をさらに深くした。


※新羅さん的猛獣考。
新羅さんの中で猛獣臨也さんは本当にただ取り扱い注意な野生動物のようです。















※アホな小話。新羅の実験でシズちゃんがわんこになってます。


シズちゃんが犬になった。
…いや、本気でだから。比喩じゃないし、そもそもどんな比喩なんだって感じだし。
先に言っておくけど俺は今回は何もしていない。原因は新羅だ。

「…なのに、何で俺がシズちゃんの面倒見なきゃいけないのさ?」

ブツブツ文句を言う俺に、茶色い毛並みのわんこ――もといシズちゃんがジロリと俺を睨んでくる。低い唸り声まで聞こえているので不機嫌なのは間違いないけど、言葉もしゃべれない今のシズちゃんじゃ、俺に文句を言うことさえ出来やしないのだ。はは、もういっそそのままずっと犬でいたらいいんじゃないかな?

「ま、話が通じないのはいつものことだし。物投げられない分その姿のほうがいいかもね」

そう言ってやったら、がちりと牙を打ち鳴らす音。
どうやら次言ったら咬むぞという意思表示らしい。

「やれやれ、シズちゃんってばどんな姿でも結局暴力でしか解決できないわけ?」

くっと笑う俺に、シズちゃんの目が剣呑な色を増した。
大型犬――ひょっとしたら犬ではなく狼なのかもしれないが――に睨まれているのだけど、ちっとも怖くない。
だってさ、結局のとこ。

「っと、痛いってシズちゃん手加減してよ!」

ドンと体当たりされて床に転がった俺に、シズちゃんは圧し掛かって首筋に歯を当ててくる。
でもそれだけだ。そう。結局シズちゃんは絶対俺を本気で殺すことなんかできやしない。だから、脅しの暴力なんか怖いわけがないのだ。

「しーずちゃん、重いから退いてよ」

少し硬めの毛並みに指を通して、柔らかなアンダーコートに指を絡める。
唸り声を上げながらも俺の首を開放したシズちゃんの毛並みに顔を寄せれば、煙草の匂い。犬の癖に犬臭くなくて代わりに煙草の匂いとかどうなんだ?

「シズちゃん」

呼べば戸惑うような気配。
そのままペロリと頬を舐められて、俺はくすりと笑った。

――早く元に戻ればいいのに。

先ほどとは真逆な願いを頭に浮かべて。
御伽噺みたいにキスで元の姿にならないだろうかなどと馬鹿なことを考えた俺は濡れた鼻先に軽くキスしてみたのだった。


※文句を言われないのも寂しい臨也さん。















※パラレルで過保護シズちゃんと病弱臨也(でも臨也は出てこない)


「新羅!あの馬鹿知らねぇか!?」
ドアを開ける寸前。ドアノブをひしゃげさせた静雄に。
新羅はああ…と小さく呟いた。

「壊さないでって何度言ったら理解してもらえるのかな?」
「あ、わりぃ」

謝っても潰れてしまったそれが元に戻るわけではないのだが。
何度やっても覚えない男を睨みつけて、新羅はまったくと呟く。
しかし、結局そんなことは気にしていない相手だ。
「で?知らねぇのか?」
と聞いてくる。
「今日はまだ来てないよ。でもそんなに心配しないでも――」
「心配しねぇわけねぇだろうか!!」

まあそうだろうね。君すっごい過保護だもんね。臨也が鬱陶しがるのも仕方ないよ。
そう指摘しても良かったが、ここは口を噤んでおく。
代わりに、新羅はおそらく静雄が失念しているだろうことを口にした。

「電話してみたら?」

言われた静雄はきょとんとして。
それから慌てて携帯を取り出してボタンを操作している。
そして――

「おいノミ蟲!手前どこにいやがる!?」

怒鳴り声に臨也がなんと答えたのか。
静雄は「そこから動くんじゃねぇぞ!」ときつく厳命した。

「わりぃ新羅。じゃあな!」

ばたばたと出て行く静雄を見送って。
新羅は首を左右に振る。

――まったく。本当にあの二人は困りものだ。















◆未来予想
※パラレル。シズちゃんと臨也が義理の兄弟。


「シズちゃん勉強はかどってる〜?」
「…うぜぇ、静かにしろ」

ノックもなしに勝手に部屋に入り込んできた数ヶ月だけ年上の“兄”を睨み付けて。
それでも静雄は律儀に「何の用だ」と聞いた。

「ん、陣中見舞いだよ」
「プリンか」

差し入れを持ってきたらしい義兄――臨也からそれを受け取って、静雄は少しだけ問題集から意識を逸らすことを自分に許す。
いい加減集中が切れてきたところだったから、ちょうど良かったのだ。

「で、はかどってる?」
「…まあ、一応な」
「ははっ、受験生は大変だねぇ」
「手前もだろうが」
「俺はいいの。余裕だもん」

自分の分のプリンには手をつけずにテーブルに置いて。
臨也は静雄のやっていた問題集に手を伸ばす。

「おお、合ってるじゃん」
「合ってなきゃ困るんだよ」

そう答えてぱくりと一口プリンを食べる。うまい。
ゆっくりと味わいながら、静雄は勝手に添削している臨也を眺めた。
親の再婚相手の連れ子であった臨也とは、すでに6年の付き合いだ。
臨也と臨也の妹と、一気に増えたきょうだいに戸惑った日々が今では懐かしい。弟の幽と違い、最初、静雄は臨也と仲が悪かった。それさえ、今では大事な思い出の一部で、静雄は小さく苦笑を浮かべて臨也に手を伸ばした。
触れられる寸前、気づいた臨也が何だ?という顔をしたが、何も言わずにそっと頬に触れる。

「シズちゃん?」

きょとんとして静雄を見る独特の色彩の瞳は、密かに静雄のお気に入りのひとつだった。
何度か撫でるが、臨也は困惑した表情のままそれでも静雄の手から逃げようとはしない。これを手放す気は静雄にはなかった。だから。

「手前、これで俺だけ受かったりしたらどうすんだよ」

勉強が好きでない自分がこれだけ努力しているのだ。余裕かましてて落ちたら許さねぇぞという意思を込めて。静雄は臨也の無防備な頬を軽く抓った。

「いたっ、痛いよシズちゃん!」
「うるせぇ、俺だけ勉強とか癪なんだよ。手前もやれ」
「ううう、横暴だよシズちゃん」

にっこり笑って言ってやれば、不満そうな顔。
抓られた頬をさすりながら臨也はふうと溜息をつく。
それから、
「仕方ないなぁ。じゃあシズちゃんがちゃあんと合格して俺と同じ大学にいけるように、この俺が教えてあげようじゃないか」
とのたまった。
勉強しろって言ったんだがなと言っても良かったが、静雄はまあいいかと考え直す。
結局、静雄は臨也が側にいれば本当はどちらでもいいのだ。勉強の邪魔はしたくないなどと言って最近あまり側にいない相手にむかついていただけなのだ。
これで、もしどちらかが受からなければ完全に離れ離れだ。それだけは避けたい。
そんな静雄の思いを知ってか知らずか。
臨也は問題集に朱を入れながら、呟くように言った。

「来年も、再来年も一緒にいれたらいいねぇ」
「…いいねじゃなくて、いるんだよ。バカ臨也」


※いいから勉強しろよ!って感じですね。一応静雄と臨也の受ける学部は違うらしいです。