小ネタログ
※携帯版memoログ。









『けもみみパラレル』設定


臨也は猫族だ。
ネコ科特有のしなやかな尾がきれいな曲線を描いて揺れる。
視界に映るそれを眺め、静雄は小さく溜息をついた。

「静雄って本当に臨也のこと好きだったんだねぇ」

静雄と臨也の婚約――彼らはまだ17歳なので必然的にそうなった――を聞き、驚天動地だと騒いだ友人、岸谷新羅が感慨深げに呟いた。

「…わりぃかよ」
「別に悪くないよ。むしろ良いんじゃないの?臨也の相手が出来るような人間、まずいないしね」

だけど、と新羅は続ける。

「君、臨也が狼嫌いだって知ってた?」
「…知ってる」

嫌いだ嫌いだと言い続けていた頃、静雄も臨也の口からそれを聞いたことがあった。
『俺も狼は大っ嫌いだよ』
人が好きだと言う彼が、何故狼族を嫌うのかは知らない。
ただ、心からの嫌悪を込めたそれは酷く印象に残っていた。

「ま、その臨也が君を受け入れたんだから大丈夫だとは思うけどさ。臨也ってあれで複雑な生い立ちだし繊細なところもあるし、扱いにくいよ?」
「知ってる」
「…本当に好きなんだね。何処をどうこじらせたらそうなるのか興味深いなぁ」
「…別にどうでもいいだろうが」
「そうだね」

窓の外、体育の授業中らしい臨也が門田にじゃれついている。
それに思いっきり顔を顰め、静雄はアイツ後でしめると本気で呟いた。
二人の視線の先で揺れる黒い猫の尾は、今日も上機嫌のそれだった。















『けもみみパラレル』設定。上の続き。


見られていることは知っていた。
ちろりと見上げた視界の端、不機嫌そうに自分を見つめる狼族の姿に、臨也はたちの悪い笑みを口の端に上らせる。

「シズちゃんは今日も機嫌悪そうだなぁ」

呟けば溜息が返る。

「なにさドタチン」
「…いや、静雄のヤツもかわいそうだと思ってな」

なにもこんなのに引っかからなくても良いだろうに。
憐れみを込めた言葉に、臨也はムッとして声の主を睨んだ。
だが、睨まれた相手は慣れたもので気にした様子もない。

「こんなのってないんじゃないかな、ドタチン」
「…充分こんなのじゃねぇか。っていうかドタチン言うな」
「酷いなぁ。俺、これでももてるんだよ?」
「…知ってる」

この黒猫はその血筋を差し引いても充分魅力的だ。
そう、門田京平も理解している。それを欲しいと思うかどうかは別として。
しなやかな細身の身体に、ピンと立った三角の耳。艶やかな被毛で覆われた尻尾はすらりと長く、触れたいと思う者も多いのかもしれない。
ネコ科の中でも猫族に特有の性質を強く引き継ぎ、その気まぐれさや気位の高さが支配欲をそそられるのだろう。
だが、と門田は溜息をつく。
これはただの猫ではないのだ。

「お前、狼は嫌いじゃなかったのか?」
「嫌いだよ。大っ嫌い。でも、シズちゃんはいいんだよ」
「………」
「大体さぁ、狼って一途なのは良いけど執着心が強すぎるっていうかさ、ちょっと、うざい」

そう言う臨也は、ぺたりと猫耳を伏せた。
過去、性質の悪い相手に追い回されたことがある彼の言葉は真実味を帯びていて。
門田は気遣わしげな視線を送る。

「大丈夫か」
「別に平気。大体俺自分で何とかできるし」

頭を撫でてやれば、ドタチンは優しいなぁと微笑む。
こうしていれば本当にただの猫族にしかみえない臨也だが。
その血に潜む遺伝子の相当に厄介な性質を受け継いだ彼は、自力で全ての問題を解決して見せた。
相手が負っただろうトラウマを思うとストーカーとはいえ多少同情の余地があったかもしれない。
だが、所詮は他人。臨也に甘い門田は自業自得だと切り捨てた。

「そうだな」

頷く門田にうんと幼い仕草で応じて、臨也はまたちらりと静雄を見た。
遠めにも分かる不機嫌に伏せられた耳が、なんというか、憐れだ。
その分かり易すぎる反応を面白がられて遊ばれている自覚は多分ないだろう彼に同情していると。

「でもシズちゃんっていつから俺のこと好きだったんだろ?」

ぽつりと呟いた臨也の尻尾の先がゆらりと揺れる。
それで、ひとつ思い出す。

「知ってるか?」
「なに?」
「静雄のヤツ、お前の姿を見つけると無意識に尻尾振ってたんだぜ」
「えー?俺、そんなの見たことないよ?」
「そりゃ、そんなもん見る余裕なかったからだろ」
「…それもそうかも」

会えばすぐに喧嘩だ。机や教室の扉を投げられるのは当たり前で、逃げる方に集中していた。
臨也にはじっくり相手を観察する余裕は確かになかったのだ。

「ふーん…そっか」

嬉しそうにまた揺れた尻尾に、門田は苦笑した。














※台詞から話を作ろうとして広がらなかったので没にしたやつ。


「俺ってどう見える?」
「あ?」
「だから、シズちゃんにとって俺ってどう見えるのかって聞いてんの」
「ノミ蟲」
「…即答どうも」
「なんだよ。じゃあ手前はどう見られた言っていうんだ?」
「は?」
「わざわざ聞くって事は何かあるんだろ?こう見られたいってのが」
「俺は勘だけはいいシズちゃんが嫌いだよ」
「…で?」

話をそらそうと挑発したが乗ってもらえず、臨也は眉間に皺を寄せる。

「ノミ蟲でいいよ」
「よくねえ」
「いや。君が言ったんだし」
「ちっ、誤魔化す気かよ」
「うん誤魔化すよ。悪い?」
「逆切れすんな」
「手前は手前だ。それでいいだろうが」
「答えになってないよシズちゃん」

そのくせ満足そうな顔をする臨也に、静雄はやれやれとため息をついた。














※小ネタというより会話文。


「重い」
「えーシズちゃんこれくらい大丈夫でしょ?」
「…寝辛い」
「ひっどいなぁ、せっかくかわいい恋人が添い寝してあげてるっていうのに!」
「誰がかわいいんだ誰が」
「俺!」
「………」
「うわ、そんな顔しなくてもいいじゃない」
「……うぜぇ」

猫の如く襟首を掴まれて引き剥がされて、臨也は不満気に頬を膨らませた。

「シズちゃん酷い!」
「酷くねぇ…っていうか恋人でもねぇし」
「反応遅いよ…かわいいの前にそこに突っ込んでよ、ホント」
「………」


※付き合ってない二人。














※シズイザ


「シズちゃんなんて大っ嫌いだよ」
「俺も手前が嫌いだ」
「きらいきらいきらい、大っ嫌い」

先程からずっと、静かな部屋の中で無意味な言い合いが続いていた。

「シズちゃんってばホントそういうとこ可愛くないよね。大っ嫌い!」
「うぜぇな」
「うっわ、今の嘘じゃなかったでしょ。シズちゃんの負けだね」
「…うぜぇ…。いいだろうが、どうせ日付が変わったとこだ」
「あ、ホントだ」

じゃあ終了だねと呟いて、臨也は渇いた喉を潤すためにキッチンへと向かう。

「シズちゃんも何か飲む?」
「ああ、もらう」
「りょーかーい」

実に楽しそうなその声だ。
大嫌いの反対は大好き。
結局1日臨也の遊びに付き合わされたがこんなにも遠まわしでなければ伝えられないのはお互い様で。
静雄は小さく苦笑するだけでそれ以上は何も言わないでおいた。



※エイプリルフール。直に言えないバカップルのちょっとしたお遊び。静雄さんお付き合いご苦労様です、な小ネタ。















※ヤンデレシズちゃん。


静雄は臨也を見るといつも思うことがある。
今も、安らかな寝息を立てる臨也を見ながら。
同じことを思っていた。

「…物騒な考えだよなぁ?」

くしゃりと臨也の髪に指を差し込んで撫でて。
ん、と鼻にかかった声を漏らす相手を見つめながら。

「跡形もなくなるまで壊して、それで、自分だけのものに作り替えてぇ…なんてなぁ?」

狂気の沙汰だ。
くつくつ笑って、静雄は物騒なことを呟いたとは思えないほど優しく優しく臨也の髪を梳く。

「手前は俺だけ見てればいいんだよ」

愛してる、と囁いて。
静雄は、我ながら狂ってるな、と酷く満足げに口にした。















※シズ→イザ。

だって、ほら。
俺はこんなに君が好きなんだ。
だから、今日も同じフレーズを口にする。

「好きだよシズちゃん」

そう俺が言うと、シズちゃんはあからさまに不愉快そうに、気味の悪いものを見る表情をする。
疑うどころかかけらも本気だと思っていない目で俺を見るんだ。
俺だって別に好きになりたくて好きになったわけじゃないんだけどね?
なんで好きになったのかとか、俺にもわからない。
そういう理屈じゃない部分で、俺にはこいつだと思っただけで。
…そう。非常にムカつくことに、結局俺はこの男にベタぼれなわけだ。

「お前の言葉は信じられない」

まったくもって同感。
俺だってシズちゃんの立場だったらそんな言葉信じない。

「失礼だねぇ、本気だったのに」

そう返してやれば、

「手前は信用に値しねぇ」

何とも尤もな台詞。
まあ認めるよ。俺は人に信用されるような人間じゃないし。
それに、告白だって本気には受け取られないようにしてるんだから。
絶対本気にされないようにシズちゃんの嫌いな笑みを張り付けて。
俺は何度も何度も告白する。

「シズちゃんが信じてくれなくても、俺はシズちゃんが好きだよ」

おんなじくらい、思い通りにならに君が嫌いだけどね。
けらけら笑って、じゃあねと手を振って。
罵声と一緒に自動販売機が飛んでくるまで、あと何秒かな?