あるいは一つの可能性
※memoログ。猛獣シズイザと津軽×サイケな小ネタ連載。










「サイケ、いい加減泣き止んでくれ」
「むり…だって、かってに、でてくるんだもん」

えぐえぐと泣きじゃくるサイケの背を撫でながら。
津軽はどうしたら何病んでくれるだろうかと考える。
サイケが何を見たのかは知らないが、サイケと臨也の反応から察するにたちの悪い悪戯を仕掛けられたのだろう。

「つがる、つがる」
「…ここにいるから、安心しろ」

大丈夫だと優しく頭を撫でてやり。
津軽は困った、と心の中で呟いた。
なにしろ状況が分からない。慰めてやろうにも、自分が間接的に…かどうかすらよく分からないが、関わっている以上は余計機嫌を損ねる可能性があるので下手なことは言えなかった。

――とりあえず事情を聞こう。

しかし、そう決めて声をかけるより早く。
サイケが顔を上げる。

「つがる、おれね、分かったんだ」
「…何が分かったんだ?」

津軽の応えに頷いて。きゅっと眉を寄せて、真剣な顔をして。
サイケは「あのね」と言葉を続けた。

「おれは、ほかのだれよりも、つがるが好きなんだ」















「おれは、つがるが好き。シズちゃんといざやくんでも、しんらとせるてぃでもこんなふうには思わないけど、つがるが、おれ以外とちゅうとかするのは、いやだ」

どこまでも真っ直ぐで純粋な目で、津軽だけを映して。
サイケは津軽に告げる。

「つがるだけが、おれのとくべつなの」

ねぇと呼びかける声は、酷く真剣で。

「つがる。これが恋、なのかな?」

そう問うたサイケは、津軽の言葉を待つようにそれきり口を噤んだ。
臨也より薄い桃色の瞳。
それから目を逸らせぬまま、津軽はどう答えればいいのだろうか、と悩む。
そうだと頷けば、たぶんサイケはそれを信じるだろう。
サイケは津軽の言葉を疑ったりはしないだろうから。
だが、それでいいのかと津軽は考えてしまう。

「なぁ、サイケ」
「…うん」
「俺は、お前に納得のいかないことはして欲しくないんだ」

だから、と言おうとした津軽の口に。
サイケの指が触れた。
人差し指で津軽の言葉を封じて、サイケはこつりと津軽の額に自分のそれを合わせてくる。

「ねぇ、つがる。つがるはおれが好き?おれとおんなじ風に、ずっと触ってたいとか、キスしたいとか、思う?」

まだ涙で濡れたままの瞳だが、サイケの視線は普段のそれとはまるで違う強い光を宿していた。

「望んでよ。ほしがって?つがるが望まないなら、おれはなにもできない」
「…だが」
「つがる。おれは、つがるがしたくないことはしない。だから、めいわくならめいわくだって。いやならいやだって、ちゃんと言って」

そう言って。
サイケは津軽の唇に、触れるだけのキスをした。
















「つがる、おれはもうつがる以外とはキスしない」

そう決めたんだ。
そう言って。サイケは小さく困ったように眉を下げて笑う。
「うまくいえないけど、おれはつがるのぜんぶをおれのものにしたいし、おれのぜんぶをつがるにあげたい。誰かとおんなじはいやだ。おれだけが、つがるのとくべつがいい」

ちゅっともう一度キスして。
「つがる、いやならいやって言ってね?」
そうしたらもうしないから。
そう言って離れようとしたサイケの体を、津軽は慌てて捕まえる。

「サイケ」
「…なに?」

いいのだろうか。と、いう悩みはまだあった。
自分の都合のいいようにサイケの気持ちを決め付けてしまうことは間違いなのではないだろうか。
そう思うのに。独占できるのならしてしたいと願うのを止められない。

「サイケは、俺でいいのか?」
「おれはつがるがいいの。わかったんだ。おれにとって、つがるはこの世界でたった一人の大事なひとだって。しずちゃんにも臨也くんにも、誰にもあげたくないんだ」

津軽はその言葉に目を眇めて、もういいか、と考えた。
サイケの感情がたとえ恋でなくても、ただの独占欲であったとしても、いずれは恋になるかもしれない。
その考えが高校時代に静雄が考えた結論と同じだと気付くこともなく、津軽はサイケに告げる。

「サイケ、俺はお前が好きだ」
だから、俺のものになってくれないか。
口にしてから、もう少しマシな言い方があったのではと思ったが。
嬉しそうにふわりと笑ったサイケに、そんな考えはすぐ消えた。















抱き締めあって何度も何度もキスして。
何度も何度も好きだと繰り返して。
サイケはやっぱりそうだと理解した。

「おれ、やっぱりつがるが好き。大好き」
「俺もだ」

そう答えてくれる相手に微笑んで、サイケは自分がようやく辿りついた答えを誇らしげに告げる。

「おれね、つがるがいれば他にはなにもいらない」

臨也のことも静雄のことも大好きではあったが、それでも誰か一人を選べと言われれば自分は間違いなく津軽を選ぶ。
それを確信するに至って、『俺は最終的にシズちゃんが全てだ』とそう言った臨也の言葉を、サイケはようやく理解した。

「ねぇ、つがる」
「なんだ?」
「もっといっぱいちゅーしよ?あとぎゅーもいっぱいして?」
「ああ」
「あとねあとね、ずっとずっといっしょにいて」

ぎゅうっと津軽の背を抱き締めてそう望みを口にすれば。
津軽は一瞬目を見開いて、それからサイケに負けないくらい嬉しそうに笑う。

「約束する。ずっと一緒だ」

力強く頷いて。
また唇を寄せてくる津軽に、サイケは心の底から幸せだと思ったのだった。