あるいは一つの可能性
※memoログ。猛獣シズイザと津軽×サイケな小ネタ連載。










「臨也?どうした?」

首を傾げ、自分の名を呼んだ相手に。
臨也はくつくつと低く笑う。

「いや、ちょっとね」
「?」

機嫌の良い臨也に、津軽は怪訝な顔をした。
それを眺め、楽しみだ、と心中で呟く。
たぶん今頃、自分の仕掛けたちょっとしたプログラムが起動しているはずだった。それを見たサイケの反応を思い浮かべ、次の行動を予測して。どのパターンで来るかな、と笑う。

「ねぇ、津軽」
「なんだ」
「君は、サイケが好きだよね」
「ああ、好きだ」

臨也の問うた好きの意味を正しく理解した上で、迷うことなく頷く津軽。
その潔さは悪くない。いや、むしろ好ましいと言っても良かった。

「じゃあ、俺のことは?」

部屋の外。小さな足音が近づくのを聞きながら、臨也はそう聞いた。















『じゃあ、俺のことは?』
そう聞いた臨也に、津軽はきょとんとする。
そんなことを臨也が問うとは、想定していなかった。
臨也が浮かべる表情を注意深く見つめて、津軽はその言葉の意図を探る。
だが、所詮は経験不足。臨也の心のうちを読むには至らなかった。
ただ、津軽も一つ知っていることがある。
臨也の問いかけの意図は、先のサイケが好きかという問いとは根本から違うということだ。
彼は、決して津軽に自分がサイケに抱くような感情を求めたりはしない。
臨也は静雄が好きで、大事で。
そして、同じぐらい。だけど違う意味で、人間ではない自分たちを愛してくれている。
それだけは、知っていた。
だから結局、津軽は素直に思うままを口にする。

「俺は臨也のことは好きだ」
「はは、ありがと」

俺も好きだよと返す臨也に。
津軽が問いかけの真意を問おうと改めて口を開いた、その時。

バタン!と大きな音を響かせて、部屋のドアが開かれた。
















「つがる!」

飛び込んできたサイケは、そのまま真っ直ぐ津軽に抱きついて。
それから、臨也を睨みつけた。

「つがるはサイケのだもん!」

何だか分からないまま一緒に臨也を見て、そこで津軽は臨也がにやにやと笑っていることに気がつく。
ああ、そういうことか。
そう、納得した。
津軽も、サイケも、臨也の掌で遊ばれているわけだ。
それが分かるだけに、ぎゅうぎゅう抱きついて「つがるはおれの!臨也くんにはシズちゃんがいるでしょ!つがるはおれのだから、ぜったいあげない!」と必死な声を上げるサイケが可哀想だった。

「サイケ、落ち着け」
「やだやだ!つがるはおれのこと好きだよね!?臨也くんより好きだよね!?」

たぶん、先程も臨也への返答を聞いていたからだろう。
必死に問いかけるサイケに、津軽は臨也のたちの悪さを改めて自覚する。

「好きだ。だから、落ち着け」
「…っ、うぅ」

ぼろぼろと涙まで零し始めたサイケを抱き締め返して。
津軽は臨也に出て行けと目で示した。

「はいはい。あーあ…予想通り過ぎて思ったほど面白くなかったなぁ」
「臨也」
「はーい。あ、そうそう。サイケ、君がさっき見たやつは、俺とシズちゃんだから!」

ひらひらと手を振って出て行く男の背を睨みつけて、いまだしがみついて泣いているサイケの頭を撫でてやりながら。
本当に最悪な男だな、と――そのくせ嫌悪感は感じられない声で呟いた。















フンフンと鼻歌を歌いながら部屋から出てきた臨也を。
静雄はその頭をがしりと掴んで捕獲した。

「え、っと…シズちゃん…?」

明らかにしまった!と言わんばかりの表情を浮かべる幼馴染に、静雄は低い声で問う。

「手前、一体今度は何しやがったんだ?ああ゛?」
「それを知ってどうするっていうのかなシズちゃんは?」
「とりあえず話を聞いてからデコピンか殴るか殺すか決める」
「……最後の選択肢は、ちょっと大げさじゃないかなーとか思うんだけど…?」
「手前は何度言っても他人を弄ぶのをやめねぇからなぁ。そろそろ世間様に迷惑かけ過ぎだと自覚しろ。ああ、安心しろ。もし殺したほうがいいような内容だったらきっちり息の根止めた後に俺も後を追ってやるからよ」

ぎりぎりと頭を掴む手に力を込めるが、臨也は僅かに顔を顰めただけだ。
あいかわらず痛覚はかなり鈍くできているらしい。

「それ、熱烈な告白か何かかい?いや、告白自体は嬉しいけど、その申し出は遠慮させてもらうよ、うん」
「却下だ。手前の意見なんか聞いてやる気はねぇ。で?」
「………今回は、シズちゃんに迷惑かけてないのに」
「サイケを泣かせただろうが」

不満そうに言う臨也に。
静雄がそう答えれば、臨也はああと納得したような表情をする。
「うん。泣かせた」
「で?何したんだ?」

睨みつける静雄に、臨也は困ったように眉を下げて。

「言わないとダメ?」
「ダメだ」

さっさと言えと促すが、相手はうーん…と唸ったきり黙り込んだ。

「ノミ蟲、俺が穏便に済ませてやろうと思っているうちに吐きやがれ」
「いや、殺すって選択肢がある時点で全然穏便じゃないと思うなぁ」

あくまではぐらかす気でいるらしい男に。
静雄はならこっちにも考えがあるぜ、と口の端を吊り上げた。